人生は笑ったもの勝ち!
ギヨーム・ガリエンヌが自伝的戯曲を映画化、
女装で “ママとボクの一人二役”に挑戦!
『不機嫌なママにメルシィ!』 (フランス=ベルギー合作/87分)
9.27 公開。www.cetera.co.jp/merci
【STORY】 「開演5分前」の声に、ステージへ向かう ギヨーム・ガリエンヌ。俳優としての成功を手にした彼は 今日、ハプニングとサプライズの連続だった自らの青春時代を演じる。最初の台詞は、「ママ」。なぜか いつも不機嫌だけれど、この世で いちばん大切な人だ。
3人兄弟の末っ子で、ママに 女の子のように育てられたギヨームは、ゴージャスでエレガントなママに憧れ、スタイルから話し方まで すべてママを真似していた。兄弟や親戚からは100%ゲイだと思われていたが、なんとか息子を男らしくさせたいパパに、無理やり男子校の寄宿舎に入れられてしまう。そこでイジメにあったギヨームは イギリスの学校に転校、親切にしてくれた男子生徒への初恋に破れ、人生最初の絶望を味わう。自分のセクシュアリティを見極めようとトライしたナンパも、とんでもない結果に! うまくいかない人生に疑問を感じ始めたギヨームは、“本当の自分”を探す旅に出る――。(プレスブックより。一部省略)
フランスで大ヒット、300万人を笑いと涙で包み、2014年度 セザール賞(いわばフランスのアカデミー賞)の5部門を 見事に受賞した作品です。
ところで、監督・脚本・主演(しかも、ママとボクの二役)の ギヨーム・ガリエンヌとは? 日本では ほとんど知られていませんが、パリ16区の裕福な名門出身、国立劇団 コメディ・フランセーズの演技派俳優で、今やフランスで大人気。最近では 話題作『イヴ・サンローラン』(通信(244)参照)で、YSLのパートナー:ピエール・ベルジェ役を演じていた人です。
ストーリーの展開は 一部の例外を除いて 小気味よくスピーディ。そのせいもあって、細かいコトは少しも気にせずに面白く観ていたのですが、映画の中ほどで「幸せは人それぞれ。そっち(ゲイ)の人も幸せになれるはずよ」とママから言われたギヨームが、「えーっ!? ボクはゲイじゃないよ、男の子を好きな女の子なんだ。ボクはストレートだよ!」と叫ぶシーンには 相当ビックリ。そのビックリの度あいが強烈だった観客は、ラスト間際のオチにも「ガテンが いかない」というコトになりそうですが、実際は どうなのでしょうか?
それは それとして、本作で僕が特に気に入った場面は ふたつ。
ひとつは、劇中劇な空想シーンが挿入されるシークエンスで、ギヨームが “ゾフィー大公妃と皇后シシイの やり取り”を演じる部分。大公妃になっているママの メーク・扮装・身のこなしが素晴らしく板についている上、一人芝居中の姿をパパに見られたギヨームが 現実に戻る瞬間の面白さも最高でした。
もうひとつは、2度めのナンパに成功したギヨームが、肉体美のドイツ人的な青年のマンションに ついて行くシークエンス。ココでも また、空想で ママが登場するという仕掛け(どうやら ギヨームの “処女喪失”は、未遂に終わった らしい です)。
今、この紹介文を書きながら 気になってきたのは、本作が 日本で どのくらい受けるかというコト。そして、ギヨーム・ガリエンヌが 世界的な人気者になるか どうかというコト…。
戦争末期のハンガリー。
疎開した双子は 大人の非常な世界を したたかに生き抜いていく――。
倫理を超えて 魂を揺さぶる 感動の物語。
『悪童日記』 (ドイツ=ハンガリー合作/111分/映倫 PG-12)
10.3 公開。akudou-movie.com
【STORY】 第2次世界大戦下、双子の兄弟が「大きな町」から「小さな町」へ疎開する。疎開先は、村人たちから「魔女」と呼ばれる祖母の農園だ。
僕らは、粗野で意地悪な おばあちゃんにコキ使われながら、日々の出来事を克明に記し、聖書を暗唱する。強くなることと 勉強を続けることは、お母さんとの約束だから。
両親と離れて別世界にやって来た少年たちが、過酷な生活のなかで肉体と精神を鍛え、実体験を頼りに 独自の世界観を獲得していく。(プレスブックより)
この映画の原作は、1986年にフランスで刊行後、40以上の国で翻訳もされた アゴタ・クリストフ(ハンガリー出身の亡命女性作家)のベストセラー小説。『ソハの地下水道』(通信(114)で紹介)の アグニェシュカ・ホランド監督や 『偽りなき者』の トマス・ヴィンターベア監督らが映画化権を得たものの実現に至らず、昨年、ハンガリーの ヤーノシュ・サース監督によって遂に日の目を見たという作品です。
チェコの カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭では グランプリを獲得したほか、アカデミー外国語映画賞のハンガリー代表にも選ばれました。
プロローグは 親子四人の一家団らんの場面で、双子の兄弟は 両親に寄り添ったり抱きついたりして甘えている…。しかし、その場面に流れているのは 微妙ながら不穏な旋律で、それが忍び寄る戦禍を暗示しているコトに気づかされます。
登場するのは、ユダヤ人の靴屋のおじいさんを除いて、ほとんどが 奇妙 or 不可思議な人物たち。悪夢とファンタジーが一体化したような物語を通じて描かれるのは、サバイバルして行く兄弟の姿。空腹・寒さ・痛みに慣れて 耐える力を養うために、さらには 死や残酷な行為を 平然と冷血に受け止めて 生き抜くがために、ふたりは協力して自主的な “訓練”を積み重ねて行く…。その過程を、驚きと抵抗感と共感の入り混じった気持ちで、僕は真剣に見つめていました。たゞ、純粋無垢だった兄弟が、あれ程までに徹底した強靭さを備えてしまって いゝものか どうか…。自分自身の幼い頃、若い頃の出来事を想い浮かべたりもしながら、いろいろと考えさせられてしまいました。
本作が、自分の現在の生きかたを見つめる、または 過去を振り返って見つめるための 機会を与えてくれる作品であるコトは、確かだと思います。
秋の映画シーズンにこそ ふさわしい 深く鋭い作品なので、ひとりで or 特に親しい友人と観るのがオススメです。
P.S. 早川書房から、堀 茂樹訳による原作本が出ているそうです。
『悪童日記』(ハヤカワ epi文庫)。
僕も一度、読んでみたい。長すぎないと いゝのですが…。
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |