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大高博幸の美的.com通信(249) 『グレース・オブ・モナコ』『シャトーブリアンからの手紙』『マルタの ことづけ』 試写室便り Vol.76

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ⓒ2014 STONE ANGELS SAS

人気絶頂でハリウッドを去り
モナコ公妃となった
伝説の女優 グレース・ケリー、
公国 最大の危機に挑む。
グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』 (フランス/103分)
10.18 公開。grace-of-monaco.gaga.ne.jp

【STORY】 伝説のオスカー女優と モナコのプリンス、レーニエ3世との “世紀の結婚”から6年経った1962年、グレース・ケリーは、いまだにモナコ宮殿のしきたりに馴染めずにいた。ある日 グレースが ヒッチコックからのハリウッド復帰の誘いに心を動かされたとき、レーニエは 過去最大の危機に直面する。フランスの ド・ゴール大統領が 過酷な課税をモナコに強要、承諾しなければ「モナコをフランス領にする」という声明を出したのだ。
愛する家族を守るため、そして宮殿生活で見失っていた自分を取り戻すため 覚悟を決めたグレースは、自分にしかできない秘策を考え出す。国を救うために決死の覚悟で挑む、生涯一の<難役>とは――? (試写招待状より)

“クール・ビューティ”と形容された 20世紀の美のアイコン:グレース・ケリー(1929-1982)を、21世紀のハリウッドを代表する ニコール・キッドマンが演ずるという、今秋
最大級の話題作。
5月に開催されたカンヌ国際映画祭では、オープニング作品として上映され、その幕開けを豪華に飾りました。

本作は 史実に基づくフィクションで、グレース・ケリーの伝記映画というよりは、心に葛藤を抱いた ひとりの女性の人間ドラマ。監督は、『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』で知られる オリヴィエ・ダアン。

最初に映し出されるのは、1955(or ’56)年、スクリーン・プロセスの撮影現場にいる ハリウッド・スター:グレース役のニコール。
メインタイトルが終ると 1961年12月の場面に切り替わり、既に二児の母となっているグレース公妃とレーニエ大公との、相当に冷えた生活が映し出されます。
そこに、モナコ対フランスの経済問題と ヒッチコック監督からの女優復帰要請の話が加わり、さらに公妃の後見人兼相談役のタッカー神父が 「側近の中にスパイがいるはず」と公妃に警告する辺りから、サスペンス的な色あいが濃くなるという展開。
僕が最も興味を惹かれたのは この部分で、意外な人物が裏切り者だったと判明する場面での 公妃の毅然たる態度と、窮地に立たされた大公と公妃が 互いの愛を再確認し合う場面辺りまでの 一連の流れが、映画らしくて良かったです。

ニコール・キッドマンは、無理のない範囲内で グレース公妃のルックスとムードを再現しながら、熱心に役を演じていて見応え十分。本作には普通のクローズアップ以上の大写しが数ヵ所にあり、ソフトフォーカス撮影法が巧みに使われているにしても、彼女は それらのビッグクローズアップに 果敢に立ち向かっていて 立派だと感じました。
僕にとって彼女は、なぜか 気になる女優のひとり。次回作の『Before I Go to Sleep』(『レイルウェイ』に続いて、コリン・ファースと共演)にも 期待せずにはいられません。
ニコール・キッドマンの出演作については、通信(73)で『ラビット・ホール』、通信(155)で『イノセント・ガーデン』、通信(214)で『レイルウェイ』を紹介しましたので、気になる方はクリックしてみてください。

P.S. 1956年4月19日のロイヤル・ウェディングの実写映像が、そのフィルムを公妃が居間で観ている というシチュエーションで、少しだけですが 映し出されました。
そこで鮮明に想い出したのが、朝日 or 毎日 or 読売新聞社の提供による週替わりのニュース映画で 挙式の様子を偶然に映画館で観た時のコト…。煌々と光を発して輝いている グレース・ケリーの 息も止まる程の美しさと、式場の荘厳な雰囲気とに目を見張ったものでしたが、その1本のニュース映画の後半に、「日光の“華厳の滝”の滝壺内を、初めて水中カメラが撮影しました」という非常にショッキングな映像が含まれていたコトと相まって、僕は いまだに それを忘れるコトができません。
ヘンな話になってしまい恐縮ですが、元・文化庁の職員さんで、後に国立フィルム・センターの館長を長年務められた 故・鳥羽幸信氏と ひとしきり その話をしたコトもあったので、どうしてもメモしておきたくなりました。あのニュース映画、フィルム・センターが所蔵しているそうなので、できれば もう1度観てみたい…。

 

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マルタ
いつか来る その時まで、ちゃんと日々を生きること。
決して終わりではない、“さようなら”についての物語。
マルタの ことづけ』 (メキシコ/91分)
10.18 公開。www.bitters.co.jp/kotoduke

【STORY】 愛する4人の子供を持つシングルマザーのマルタと、一人暮らしで友だちも彼氏もいないクラウディア。二人は病院で出会い、マルタはクラウディアを自宅に招く。それぞれが強烈な個性を持つ子どもたちと、自分を娘のように扱うマルタに戸惑いながらも、クラウディアは 家族の温もりと母の愛を初めて知ることになる。
一方、マルタは日々を生きることに全力を注ぐ。なぜなら、マルタには 死期が迫っていたから…。(試写招待状より)

メキシコ第二の都市:グアダラハラを舞台に描かれる、ひとりの孤独な女性の人生を変えた 偶然の出会いと 永遠の別れ…、死と生に関するヒューマン・ドラマ。
これが長篇デビュー作となった31歳のクラウディア・サント=リュス監督が、実際にマルタ一家と過ごした想い出を映画化した作品で、主人公のクラウディアには 監督自身の姿が投影されているとのコト。トロント国際映画祭等で、既に少なくとも11の賞を得ています。

カメラは マルタ一家とクラウディアの ひと夏を、淡々と追い続けるように映し出していくのですが、重いテーマの割に表現は軽やかで、コメディのタッチさえ感じられます。それは、死を恐れながらもユーモアを忘れない、温かく前向きな マルタの人柄があってのコトのようでした。
また、幼くして両親を失い 愛を知らぬまゝ生きてきたためなのか、無機質的で無表情なクラウディアに 血の通った人間らしさが徐々に表れてくるプロセスと、ラストで “マルタのことづけ”を聞く子供たちのデリケートな表情には、誰もが静かな感動を覚えるだろうと思います。

“ことづけ”(マルタの遺言です)は 決して特別な内容ではありませんでした。皆さんのお母さんが、娘かわいさに 口うるさく言う、いわば お説教に近い内容でした。でも、だからこそ 心に深く しみるのです。この映画を観た皆さんは、お母さんを今まで以上に好きになり、同時に 命の尊さと愛おしさを 改めて感じるコトになるでしょう。地味な小品ですが、一見の価値は十分にあります。

 

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シャトーブリアン

© ARTE France –2011–LES CANARDS SAUVAGES –7ème Apache Films–PROVOBIS FILM

1941年、ナチ占領下のフランス。
1人のドイツ将校の死の報復に、
ヒトラーは150人の人質の死を要求した――。

『ブリキの太鼓』の名匠 シュレンドルフ、
13年ぶりの日本公開作。
シャトーブリアンからの手紙』 (フランス=ドイツ合作/91分)
10.25 公開。www.moviola.jp/tegami/

【STORY】 1941年10月20日、ナチ占領下のフランスで1人のドイツ将校が暗殺される。ヒトラーは即座に、報復として、収容所のフランス人150名の銃殺を命令。過度な報復に危険を感じたパリ司令部のドイツ軍人たちは ヒトラーの命令を回避しようとするが、時は刻々と過ぎ、政治犯が多く囚われているシャトーブリアン郡の収容所から人質が選ばれる。その中に、占領批判のビラを映画館で配って逮捕された、まだ17歳の少年 ギィ・モケがいた……。 (宣伝用チラシより)

ドイツの名匠:フォルカー・シュレンドルフ監督が、ヒトラーの時代の歴史の真実を “フランスとドイツの合作”という形で真摯に描写した力作で、「両国の和解なくしてヨーロッパはありえない」と断言する監督の積年の思いが 凝縮されているかのようです。
3時間近い長尺になっても おかしくない題材ですが、脚本も担当した監督は “観客を疲労困憊させる長篇大作”となるコトを避け、敢て 91分という尺に まとめ上げたのでは と僕は感じました。

展開は 感傷が入り込む余地もないほど、ダイレクトで冷静。描かれているのは、反ナチス派のドイツ軍人や心あるフランスの行政官、収容所内の人質たちの心理と行動。特に印象的だったのは、主役のモケ、反ナチス派のドイツの大佐と将軍、フランス側の善良な若い行政官のルコルヌ、老医師のモリスやタンボー、銃殺の任務を拒もうとする若く純粋なドイツ兵…。
さらに忘れられないのは、銃殺が執行される直前に 収容所へ到着した神父が、行政官とドイツ兵たちに向かって発した言葉です。
「この件に君も加担していると なぜ気づかない? 銃殺は暗殺を、暗殺は さらなる銃殺を生み、報復の連鎖を招くだけだ。君たちは何に従う? 命令の奴隷になるな。自分自身の良心の声に耳を傾けなさい!」。

P.S. シュレンドルフ監督は、名作『ブリキの太鼓』(1979)で カンヌ国際映画祭最高賞、及び アカデミー外国語映画賞を受賞。近年は、『ハンナ・アーレント』(通信(182)で紹介)を監督した妻のマルガレーテ・フォン・トロッタと共に、第二次世界大戦下のドイツ史の映画化に力を注いでいる名匠です。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

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