双子の弟が死んだ。
10歳のスピヴェットは、家族の心にポッカリと空いた穴を、
小さな体で懸命に埋めようとした――
『アメリ』の ジャン=ピエール・ジュネ監督、新境地にして最高傑作!!
3Dで笑いと涙と驚きが飛び出す、感動の物語。
『天才スピヴェット』 (フランス=カナダ合作/105分)
11.15 公開。spivet.gaga.ne.jp
【STORY】 モンタナの牧場で暮らすスピヴェットは、生まれながらの天才だ。だが、家族には全く理解されていない。さらに、父親から溺愛されていた 自分とは性格が正反対の双子の弟の死で、家族の中に自分の居場所はないと感じながら暮らしていた。そんな ある日、スピヴェットに 最も優れた発明に贈られる科学賞受賞の知らせが届く。
初めて認められる喜びを知り、ワシントンD.C.で開かれる授賞式に出席するべく 家出を決行…、数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。そして、何とか間に合った受賞スピーチで、彼は ある<重大な真相>を明かそうとしていた――。(チラシより。一部省略&加筆)
日本でも驚異的な大ヒットを記録した『アメリ』(2001、オドレイ・トトゥ主演)の ジャン=ピエール・ジュネ監督による、可愛くて楽しくて、しかも胸を打つドラマです。
新型デジタルカメラ“ALEXA M”と光ファイバーを初めて駆使して撮られた3D映画で、徹底的に作り込まれたユニークな立体映像は、技術的にも感覚的にも3D作品中のベスト・オブ・ベスト。全篇、“飛び出す絵本”以上に魅力的で、3D作品にありがちな 奇をてらった or わざとらしい作りは皆無でした。
しかし、何よりも良かったのは、主役のスピヴェット少年のキャラクターです。彼は知能指数が極めて高い天才ですが、弟の代わりになれない自分の資質に胸を痛めているという繊細な感性の持ち主で、思考性と行動性を含めて、いじらしいほど健気(けなげ)な男の子。
しかも、このスピヴェットを演ずる少年俳優:カイル・キャトレットの 類まれな 容姿・個性・演技が 圧倒的に素晴らしく、この映画の成功に大きく貢献しています。
100%幸せな内容だった『アメリ』とは異なり、観客の涙を誘う 切ない要素を含んだ内容ですが、脚本(『アメリ』と同じく、ジュネ監督が ギョーム・ローランと共同で執筆)も演出も その点をサラリと描いているため、湿っぽい印象は与えません。それが また、観客を素直に感動させる結果を招いているようでした。
予備知識は 余り持たずに見るほうがいいと思いますが、主要な登場人物について、ある程度 知っておけば 画面をより深く観るコトができるはずなので、以下 簡単に紹介しておきますね。
スピヴェット…… 『ディスカバー』誌に論文が掲載されたコトもある天才科学者。好奇心旺盛で研究熱心な彼は、あらゆる事象を ノートに毎日 書き込んでいる。そんな彼にとっての難題は、揃いのソックスを正しく履くコト、何でもいいから牧場で役に立つコト、全く似ていない父に愛されるコト。
テカムセ…… スピヴェットの父。100年遅れて生まれて来た 純度100%のカウボーイ。夜になると、ビリー・ザ・キッドの祭壇・ピューマの剥製・馬蹄とブーツのコレクションが飾られた部屋で、きっかり45秒ごとにウィスキーを飲む。そんな彼が、なぜ昆虫博士と結婚したかは、人類の謎だ。
クレア博士…… スピヴェットの母で、昆虫の専門家。小さな生物を顕微鏡で観察し、それを分類する作業に人生の大半を費やして来た。彼女の想像力や科学的好奇心は、長男のスピヴェットに受け継がれている。なぜかトースターを爆発させてしまう不思議な能力の持ち主で、壊れたトースターも標本にされている。
グレーシー…… スピヴェットの姉。ビューティ・コンテストで優勝して ハリウッドのスターかアイドルになるはずだったのに、どうしてモンタナのド田舎に生まれてしまったのかと 本気でハラを立てゝいる。父と母の どちらに似ているかは、よく分からない。
レイトン…… スピヴェットの二卵性双生児の弟。体が大きく、向こう見ずな性格。明らかに父親似で、牧場は彼が継ぐものと誰もが信じていたが、ある日、銃が暴発して亡くなってしまった。スピヴェットとの共通点はゼロに等しいものの、兄弟仲は良かった。
ジブセン…… ワシントンD.C. スミソニアン博物館の次長。実は虚栄心と野心の塊のような女性で、最後は スピヴェットを取り戻しに来たクレア博士にブン殴られ(平手打ちだったかも)、目を回してブッ倒れる。
その他、昔々のホーボーのような廃貨車暮らしのオジイさん、関取のような体形のお巡りさん、アメリカ版一番星のような長距離トラックの運転手さんら、味のある脇役にも御注目。
『天才スピヴェット』は、美的.com読者全員にオススメの、可愛い可愛い傑作です。
「『アメリ』、大好き、忘れられない❤」、「詰め込み過ぎで長かったけど、『ヒューゴの不思議な発明』も良かった❤」と言う人が周囲にいたなら、ぜひとも、この映画を観に行くように教えてあげてください。
P.S. スピヴェット役の カイル・キャトレット君は、透き通るような色白ミルク肌(鼻のまわりを中心にソバカスが沢山。サンスクリーンなしで紫外線を浴びては絶対に危険なタイプ)。唇は 新鮮な血液の色そのもののようにブライト。こんなにキレイな男の子、他にいたかどうか、想い出せない…。
母親役は ヘレナ・ボナム=カーター。『英国王のスピーチ』(通信(47)で紹介)の頃と比べると肉付きが相当良くなっていて、全身にモタつきが出ています。これ以上 太らないでほしいとは思いますが、それでも彼女の魅力は健在でした。現役の女優で 僕が一番好きなのは、やっぱり この人! 次回作は、ケイト・ブランシェットと共演の「Cinderella」(!)だそうです。
次回の試写室便りは、宮沢りえ主演の『紙の月』等について、近日中に配信の予定です。では!
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |