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大高博幸の美的.com通信(288) 『サンドラの週末』『夫婦フーフー日記』『国際市場で逢いましょう』 試写室便り Vol.93

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sandra

©Les Films du Fleuve -Archipel 35 -Bim Distribuzione -Eyeworks -RTBF(Télévisions, belge) -France 2 Cinéma

仕事を続けるための条件――
16人の同僚のうち過半数が、
ボーナスではなく サンドラを選ぶこと。
すべては月曜日に決まる。

サンドラの週末』 (ベルギー=フランス=イタリア合作/95分)
5.23 公開。www.bitters.co.jp/sandra

【STORY】 体調不良から休職をしていたが、ようやく復職できることになった矢先の金曜日に、上司から解雇を言い渡されたサンドラ。解雇を免れる方法は、16人の同僚のうち過半数が 自らのボーナスを諦めること。ボーナスをとるか、サンドラをとるか、月曜日の投票に向け、サンドラは夫に支えられながら、週末の二日間、同僚たちを説得に回る。
どのような言葉で人の心は動くのか、自分の人生と善意は天秤に掛けられるのか、サンドラは仕事を続けられるのか……。(プレスブックより)

主演は マリオン・コティヤール。監督と脚本は、2度のパルムドール大賞を含む、カンヌ国際映画祭で史上初の5作品連続主要6賞の受賞を誇るダルデンヌ兄弟。ヨーロッパやアメリカでは既に数多くの作品賞と主演女優賞を獲得している、誰にとっても他人事ではない社会ドラマであり人間ドラマです。物静かで淡々としていながら密度の高い内容で、話が進む度に心が騒ぐ展開。繊細でいて明確かつ力強く、観客は皆、サンドラに同行しているような気持ちを味あうでしょう。
説得に回るサンドラの「物乞いみたいな気持ちがする」という言葉。それに対して「いや、そうじゃない」と励まし続ける夫。16人の同僚のある男性は「金を奪いに来た」と言い放ち、仲良しだったある女性は居留守を使い、また ある男性は「君に味方したいけど、経済的に無理なんだ」と頭を下げる。しかし、身勝手な夫と離婚してでもサンドラを守ろうとするアンヌや、「僕のミスの責任を被ってくれた君の親切は忘れない」と言いながら涙するインド人のカデールなど、同僚たちの人生模様や性格の本質が垣間見えるところも興味深い。個人的には、想い出す事例や想像できるコトが いろいろあった95分でした。
サンドラ役の M・コティヤールは、再び新境地を開いた感あり。ほとんど素顔にタンクトップという いでたちで、自尊心を保ちながら 精一杯の力を ふり絞る姿が、高貴なまでに美しい。
現代社会を生き抜く人々、特にOLの皆さんにとっては 必見の一作です。

 

(c)2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

(c)2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.

あなたは、お父さんの人生を知っていますか?
『王になった男』『7番房の奇跡』を超え、韓国映画史に語り継がれる感動。

国際市場(いちば)で逢いましょう』 (韓国/127分)
5.16より 公開中。kokusaiichiba.jp

【STORY】 朝鮮戦争時の興南撤収作戦による混乱の中、父、そして妹のマクスンと離ればなれになったドクス。母と幼い弟妹と共に、避難民として釜山の国際市場で叔母が経営している「コップンの店」に身をよせる。
やがて たくましく成長したドクスは、父親の代わりに家計を支えるため、西ドイツの炭鉱への出稼ぎや、ベトナム戦争で民間技術者として働くなど、幾度となく生死の瀬戸際に立たされる。しかし彼は家族のために、いつも必死に笑顔で激動の時代を生き抜いた。「今からお前が家長だ。家族を守ってくれ。いつか国際市場で逢おう」。 それが最後に交わした父との約束――。(プレスブックより。一部省略)

韓国映画歴代2位という、記録的な動員力と興行成績を打ち立てた 国民的・大衆的な大河ドラマ。1950年12月から現代に至るまでの物語で、重要な歴史のトピックが、主人公ドクスの波乱に満ちた人生を通して 分かりやすく描かれています。しかも、興南撤収の波止場の場面は 中国からの引き揚げを、国際市場の場面は 闇市を、離散家族を探すTV番組は NHKの「たずね人の時間」etc とオーバーラップし、日本の戦後史を観ているような気持ちにもさせられました。
ドクス(ファン・ジョンミン)と その妻となるヨンジャ(キム・ユンジン)をはじめ、ドクス一家の描写は全て感動的ですが、僕が特に惹かれたのは、子供時代に出会って以来、生涯の友となったドクスとダルク(オ・ダルス)の友情の強さ。そして最も泣けたのは、ドクスがTV番組の中継で、30年以上 行方不明だった妹と 念願の再会を果たす場面でした。
韓国と日本の間には長びく政治的問題も存在していますが、それとはベツの話として観てほしい映画です。

 

fufunikki

(C)2015川崎フーフ・小学館/「夫婦フーフー日記」製作委員会

死んだはずのヨメが、ダンナの前に現れた!
日本中が応援した闘病ブログ、待望の映画化!

夫婦フーフー日記』 (日本/97分)
5.30 公開。fu-fu-nikki.com

【STORY】 作家志望のダンナ・コウタ(佐々木蔵之介)は、本好きなヨメ・ユーコ(永作博美)と出会って17年目にして ついに結婚。直後、妊娠とガンが発覚し、幸せな新婚生活は闘病生活へ。ヨメの病状をブログで報告しはじめるダンナ。そして、入籍から わずか493日後、ヨメは亡くなった。
悲しみに暮れるなか、闘病ブログ出版の話が舞い込み、ダンナは「念願の作家デビュー!」と現実逃避。ところが、そこへ、死んだはずのヨメが現れた! 果たして これは、幻影? 現実? ヨメのいない世界で、死んだはずのヨメと、ヨメが元気だった頃を ふり返るダンナ。やがて、生きている間には伝えられなかった、それぞれの想いが あふれ出す――。(チラシより)

原作は、川崎フーフの「がんフーフー日記」。映画化に当たって、“死んだヨメが残されたダンナの前に現れる”という脚色を施し、チラシ上部の惹句にあるとうりの“まさかの!泣けるコメディ”に仕上げられた作品。それも決して悪ふざけではなく、ユーモラスなタッチとドタバタテキパキとした展開で、湿っぽくなりがちな物語をカラッと楽しく描いています。
プレスブックに川崎フーフ氏が談話を寄せていましたので、ここに抜萃して紹介しておきます。
「亡くなったヨメは 僕との間に、ぺ~という息子と『がんフーフー日記』という書籍、その2つを遺してくれたと思っています。ある意味、息子も本も“僕たちの子どものようなもの”。なので、本という子どもが成長して 映画という友だちを連れてきてくれた、しかも なんか ものすごい友だちを連れてきたぞ、と(笑)。」「映画は(本で書いた奮闘記の)その後のストーリーですが、フィクションと分かっていても ダンナに自分を重ねてしまうところはありましたし、ドキッとした部分もありました。生前のエピソードは ほぼ原作に忠実に描いてくださり、とても感謝しています。」
優柔不断な性格のコウタを演ずる佐々木蔵之介は、時々 微妙に女性的な動きを見せるところが面白く、豪快で少々男性的なユーコ役の永作博美との息もピッタリ。20歳のコウタとして登場する回想シーンは 年齢的に無理があって当然ですが、特にラストの晴れ晴れとした笑顔が最高に良かったです。
監督は、36~37歳という若さの前田弘二.僕が彼の作品を観たのは今回が初めてですが、コントロールの質が高いと感じました。特に、コウタと上司の山下との場面、コウタと友人の佐藤との場面に、監督のデリカシーが如実に表れています。逆に凡庸だと感じたのは、本棚を前にしての2場面で、そこはフツーに撮ってしまった感じ…。それと、ユーコの父が病室から出て来て泣き崩れる場面…、そこにベンチがあれば、もっと自然な演出ができたはず。そんなシーンにも彼ならではのセンスが込められていたなら、さらに良くなっていただろうと思うのです。
僕は この映画を観ながら、若くして亡くなった父、叔母、いとこの幼い子供のコトなどを想い出して、悲しいというよりも懐かしいような気持ちになり、涙を少し、ポロリポロリと流しました。観終えた後、温かく優しい気持ちになれる映画です。誰かと一緒に、ぜひ観てください。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 


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