愛を奪われ 復讐という業を背負った男と 声を失った女。
1870年代 アメリカ、命の価値は 駅馬車以下だった――。
『悪党に粛清を』 (デンマーク=イギリス=南アフリカ合作/93分/R15+)
6.27 公開。akutou-shukusei.com
【STORY】 1870年代 アメリカ――。デンマークから新天地アメリカへ渡った元兵士のジョン(マッツ・ミケルセン)は、開拓地で非情にも妻子を殺されてしまう。犯人を追いつめ射殺したジョンだったが、犯人が悪名高いデラルー大佐(ジェフリー・ディーン・モーガン)の弟だったことから怒りを買う。更に その情婦で 声を失ったマデリン(エヴァ・グリーン)をも巻き込み、それぞれの孤独で壮絶な復讐が はじまる…。(試写招待状より)
勧善懲悪物のデンマーク製ウェスタン。妻と子供を、さらに兄をも殺されてしまう善良なる主人公の復讐劇なので、「面白い」という形容は不謹慎なのですが、この映画は実際のところ、相当に面白く、興味深かったです。悪党の非情な仕業や殺しの場面を 必要以上に強調するコトを避け、生々しさをギリギリまで抑えた演出(クリスチャン・レヴリング)に “品位”があり、そのために観る側は、かえって強烈な恐怖と憤怒を覚えずには いられなくなる…。そうした作りが、本作を見応えのあるドラマにしています。
主役の マッツ・ミケルセン(デンマーク出身。今、 国際的に最も注目されている俳優)は、いつもながら複雑な感情を 抑制の利いた演技を通じて巧みに表現。今回も ほとんどノーメークで、その細くて薄いまつげにマスカラを軽く使うコトさえしていません。ハリウッドのスター男優陣とは、ひと味も ふた味も違う個性と演技のスタイルが素晴らしい。
エヴァ・グリーン演ずるマデリンは、幼少期に 両親が先住民に殺された時、泣きわめく声を止めるために 舌を切られて声を失ったという設定で、台詞は一言も発しません。何を考えているのか分からないように演出されていますが、悪党の金庫から札束を持って逃げる辺りからラストに向けての活躍が見モノ。
本作は「これから先、どうなるのだろう」とハラハラしながら観るのが一番なので、細かい説明は避けますが、ともかく誰と一緒に観ても楽しめる or のめり込めるはずの第1級エンターテインメント(たゞし、R15+の映倫指定であるコトは忘れないで)。
原題は“THE SALVATION(救世手段、救世主といった意味)”。日本題名は、この映画のニュアンスを、原題以上に うまく伝えています。
2015年、来たるオリンピックに湧く東京。
巨大化した “LOVE”が、姿を現す――。
『ラブ & ピース』 (日本/117分)
6.27 公開。love-peace.asmik-ace.co.jp
【STORY】 うだつの上がらない日々を過ごすサラリーマン・鈴木良一(長谷川博己)。ある日、良一はデパートの屋上で一匹のミドリガメと目が合い、運命的なものを感じる。あきらめたロックミュージシャンへの道、まともに話せないが恋心を抱く寺島裕子(麻生久美子)への想い…。彼の人生を取り戻すのに必要な最後の欠片<ピース>、それが…そのミドリガメだった! ――半年後、日本じゅうを席巻した良一と裕子の前に、愛を背負った巨大な “LOVE”が姿を現す。(試写招待状より。一部省略)
上司からも同僚たちからも「バカ」「バーカ!」と罵られ、背中に廃棄シールを貼られたりしている哀れな良一。「なんなの、この会社」と思わずにはいられない不快な場面に始まる物語。でも、シールをそっと剝がしてあげたり、下痢に苦しむ良一にオズオズと薬を差し出したりする裕子の存在が、「コレは きっと、ふざけた映画ではない」と感じさせる…。さらにミドリガメの登場と、そのカメが下水道へと流されて行く場面辺りから ラストの大団円に至るまで、園 子温監督の世界に引き込まれてしまう117分。
現代社会に対する批判 or メッセージを感じさせながらもファンタジックで、コレは奇妙で規格外とも言える、とても変わった映画です。下水道の奥には捨てられたオモチャやペットたちが住む不思議な空間があり、元は高級トーイショップのウィンドウに飾られていたマリアという名の人形の 悲しみ・優しさ・佗しさには、特に胸に迫るモノがありました。
良一役の長谷川博己は、今回はオーバーアクションを求められていたような雰囲気ですが、うだつの上がらない会社員としての姿と、ロック界のスーパースターとなった姿が、同一人物とは思えない程の変身振り。どちらもサマになっている上、忠犬のような性格のカメとの絡みに真実味がありました。色気ゼロでダサイ見かけの反面、自己をしっかり持っている裕子役の麻生久美子も好演。謎の老人役の西田敏行は正に適役で、彼以外のキャスティングは ちょっと考えられません。加えて、マリア(コマ撮りのアニメーションで 動き、話もする)の声を演じた中川翔子の台詞のうまさも、特筆に価します。
ある種の ぎこちなさを感じさせる部分もありましたが、愛と夢と希望に溢れていて(プラス、少々反省させられる要素もあり)、観終えた後、独得な充実感を味わえる一篇です。彼氏 or 親友と観ても、小学生ぐらいのお子様と観ても楽しめると思います。
僕らは、こんな“能力” 望んじゃいなかった。
宿命に引き合わされる、二組の特殊能力者たち。
勝つのは 希望か、絶望か――。
『ストレイヤーズ・クロニクル』 (日本/126分)
6.27 公開。www.strayers-chronicle.jp
【STORY】 1990年代初め、ある極秘機関の実験によって、二組の“進化した”子供たちが誕生した。全く違う方法で生み出された彼らの共通点は、通常の人間にはない特殊能力を持つこと。だが、成長した彼らが選択したのは、正反対の道だった。希望を信じた一組は、自分たちの能力を未来のために使おうとし、絶望に満ちた もう一組は、未来を破壊しようと決意した。仲間との絆だけを頼りに生きてきた彼らが今、宿命によって引き合わされる。彼らを利用しようとする権力者たちが暗躍する中、人類の未来を決する戦いが始まる――! (試写招待状より)
ミステリー作家:本多孝好の同名ベストセラー小説を、『ヘヴンズ・ストーリー』の瀬々敬久が監督した“次世代型”アクション映画。題名は「さまよえる者たちの記録」という意味。
第1主役は 初のアクションに挑戦する、実は体がカタイらしい岡田将生。彼は本作のためにダイエットをしたのか、元々スリムな姿形が一層シャープに。顔つきも少し変わったように見える瞬間がありました。唐突ですが、本作での彼を観ながら心配になってきたコトが ふたつ。
① 役作りのための努力は俳優にとって不可欠。But、体重は なるべく一定に保ってほしい。20代半ば以降の体重の増減は、肌のたるみを招く結果になるというケースを、この目で多く見てきたので…。② アクションシーン(体がカタそうには 見えませんでした)で、彼の顔の間近にナイフが突きつけられるショットが何度もありました。そうしたシーンの撮影中にケガなどしないでいたゞきたい。大勢のファンのためにも、顔に傷など作りませんように…。
本作は オールロケに こだわったという作品。六本木、お台場、日本橋、代官山、表参道、西新宿etcで撮影された新感覚の画面は、特に夜のシーンがスタイリッシュで美しい。
映画として ひとつ気になったのは、アクションシーンや 何かの出来事が起きた場所へ、その仲間たちが走って来ては立ち止まり、そのまゝ立ち尽くすという、青春群像舞台劇に よくあるような流れが多かったコト。そこに もう一工夫が なされていたなら、テンポとノリが もっと良くなったはず と僕は思いました。
パルム・ドール大賞 受賞! カンヌで世界を魅了した3時間16分。
世界遺産 カッパドキアの壮大な風景のなかで紡がれる、深淵なる物語。
『雪の轍(わだち)』 (トルコ=フランス=ドイツ合作/196分)
6.27 公開。www.bitters.co.jp/wadachi
【STORY】 カッパドキアに佇む ホテル・オセロ。親の土地や資産を受け継ぎ、ホテルのオーナーとして何不自由なく暮らす元舞台俳優のアイドゥン。しかし、若く美しい妻との関係は うまくいかず、離婚で出戻ってきた妹とも ぎくしゃくしている。さらに 家を貸していた一家には 家賃を滞納された挙句に 思わぬ恨みを買ってしまう。何もかもが うまくいかないまま、やがて季節は冬になり、彼らの住むカッパドキアも雪に閉ざされていく。深々と降り積もる雪の中で、彼らは ホテルに こもり、その鬱屈した心の内を さらけ出していく。善き人であること、人を赦すこと、豊かさとは何か、人生とは? 他人を愛することはできるのか? 彼らの終わりのない会話は続いていく。凍てつく大地の雪解けを待つように――。(試写招待状より)
カンヌ国際映画祭で絶賛され、最高賞である パルム・ドール大賞を受賞した作品です。監督はトルコ映画界の巨匠:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン。文豪 チェーホフの3つの短篇を発想源にしたという現代劇。舞台は世界遺産のひとつ、トルコのカッパドキアで、その壮大な景観とは逆に、閉塞感に満ちた室内で ぶつかり合う 登場人物たちの会話によって成り立っています。カッパドキアには 数億年前の火山の大噴火によって生まれた キノコに似た形の岩が数多く存在し、“オセロ”は その大きな岩を削って作られたホテルです。
10名ほどの登場人物たちの会話に こめられているのは、気が めいるような押しつけがましさ、自己主張のための辛辣な言葉、矛盾を はらんだ普遍的な論理、等々。人によって大きく異なる 感覚、解釈、思考、そして表現法の違いから 話は一向に嚙みあわず、「人生って、思うようには ならない or どうにも ならないモノだなぁ」と考えながら観ていると、それが そのまゝ台詞になって出て来たり…。さらに、観ている自分をも含めて、誰もが身勝手な人間に思えてくる…。それでも、また新たな人間関係と生活を暗示 or 想像させて終るという196分。とても長い映画ながら濃密で、自分の人生観や物事の捉えかたを追求しているタイプの方々にとっては、決して長すぎる映画では ないでしょう。自分自身と対峙する覚悟で観るならば、むしろ 短いかも しれません。
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ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |