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Channel: 大高 博幸 –美的.com
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大高博幸の美的.com通信(301) 『わたしに会うまでの1600キロ』『夏をゆく人々』『黒衣の刺客』 試写室便り Vol.98

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1600kilo

© 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

人生には、バカなことをしなきゃ、
乗り越えられない時がある――。

1600キロの山道と砂漠を踏破するという無謀な旅で、
どん底の日々から ベストセラー作家へと
人生をリセットした女性の実話。

わたしに会うまでの1600キロ』 (アメリカ/116分/R15+)
8.28 公開。1600kilo.jp

【STORY】 スタートして すぐに、「バカなことをした」と後悔するシェリル。今日から一人でトレイルを歩くのだが、体のあちこちが悲鳴を上げ、夜は暗闇と野生動物に脅えて眠れない。この旅を思い立った時、シェリルは最低の日々を送っていた。母の死の悲しみに耐えられず、優しい夫を裏切っては 薬と男に溺れ、結婚生活も破綻。このままでは残りの人生も台無しだ。母が誇りに思ってくれた自分を取り戻すために、一から やり直すと決めたのだ。だが、この道は 人生よりも厳しかった。酷暑の砂漠、極寒の雪山に行く手を阻まれ、水も食べ物も底をつき、命の危険に さらされながら、自分と向き合うシェリル。果たして彼女が 1600キロの道のりで見たものとは――? (プレスブックより。一部省略)

原作は ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストでNo.1を記録し、全米で大ブームを巻き起こした シェリル・ストレイドの1冊の本 = たったひとりで 94日間、1,600キロを歩いたという途方もない体験記。彼女が挑んだのは 〝パシフィック・クレスト・トレイル〟(アメリカ西海岸を メキシコ国境からカナダ国境まで 南北に縦断する自然道)で、ベテランハイカーでも断念するケースがあるほどの過酷な道のり。しかも彼女は、気軽な山歩きの経験さえない ズブの素人だったというのですから、啞然とさせられます。
そんなシェリルが、なぜ 歩こうとしたのか、何度も やめようとしながら 歩き続けられたのか…。本作は シェリルの その心の内を、ちょっとした出来事や言葉から 彼女が フッと想い出す数々の過去を、フラッシュバック(回想場面の捜入)によって解き明かしていきます。

本作には、『ダラス・バイヤーズクラブ』や『カフェ・ド・フロール』(通信(278))の ジャン=マルク・ヴァレ監督 特有の 露骨なセックスシーン(と言うよりはファックシーン)が 度々 映し出される一方で、非常に純粋で感動的な場面が 幾つか用意されています。
ラスト近くの山道での場面が その最たる部分で、シェリルが ロバ(?)を連れた おばあさんと 孫の男の子(5歳前後)に出合うところ。短い やりとりがあった後、歌を聞かせてくれた男の子に、「すてきだった。ありがとう」と お礼を言うシェリル。そして 、その男の子の嬉しそうな、誇らし気でもある静かな微笑…。これに続く場面も含めて 詳しく書くコトは 敢えて避けますが、この場面に立ち合えただけでも、猛暑の中、試写室まで走って行った甲斐があった! と思えました。

シェリルを演ずる リース・ウィザースプーンは、前作『インヒアレント・ヴァイス』(通信(286))までの優等生的女性像とは大きく異なる役柄を、勇気を持って熱演。『きっと、星のせいじゃない。』(通信(274))での好助演が記憶に新しい ローラ・ダーン(母親役)も、説得力と存在感のある演技を見せています。

 

© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idée Suisse

© 2014 tempesta srl / AMKA Films Pro ductions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idée Suisse

トスカーナの陽光と青い空のもと、
蜂飼いの少女と家族の 絆と葛藤――

夢と日々のあわいに描いた、
ひと夏の 心にしみいる映像日記。

夏をゆく人々』 (イタリア=スイス=ドイツ合作/111分)
8.22 公開。www.natsu-yuku.jp

【STORY】 みずみずしい光と緑あふれる イタリア・トスカーナ地方の 人里離れた土地で、昔ながらの方法で養蜂を営む一家。ジェルソミーナは 4人姉妹の長女で、自然との共存をめざす父 ヴォルフガングの独自の教育と寵愛を受けてきた。家族は蜜蜂とともに自然のリズムの中で生活を営んできたが、ある夏、村にテレビクルーが訪れ、一家が ひとりの少年を預かった頃から、日々に さざなみが立ち始める――。(試写招待状より)

2014年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した作品。イタリアの新鋭女性監督:アリーチェ・ロルヴァケル(1981年生まれの弱冠33歳)の長篇第2作であり、彼女は本作によって 一躍 注目の存在となっているそうです。

まず 正直に言うと、試写室に着いてプレス資料とチラシを受け取った瞬間、僕は相当 ビックリさせられました。試写招待状の画像(金子國義氏の絵から毒気を抜いて、抒情的かつ無気質にしたような不思議なイメージのイラスト)とは、趣を かなり 異にしていたからです。もっとも、そのイラストを目にするワケではない(はずの)皆さんには、全く関係のない話ですが…。
本作は 導入部から5分の3ぐらいまではドキュメンタリー風なタッチで、一家の日々を 細部まで つぶさに映し出していきます。しかし、その後は 終局に近づくにつれて、寓話的な雰囲気と省略法的な表現とに変わっていきます。僕自身は そこに 多少の戸惑いのようなモノを感じました。

粗野な印象をもつヴォルフガングと ハイソサイエティ的な背景を感じさせる風情の彼の妻との関係、ココという いわくあり気な同居人(娘時代に性的なトラブルを経験したに違いないと一瞬で想像させる女性)、及び 蜂蜜製造業に関する政府の規制(主に衛生上の問題)等も興味をそゝりますが、全篇を通じて僕が最も惹かれたのは、思春期に差しかゝった辺りのジェルソミーナとマルティン(更生のために一家が預かるコトとなった14歳の少年。TVクルーのプロットとは無関係)の 淡い恋ごころに似たデリケートな描写。誰もが一度は経験する その年頃特有のイノセントな感情の流れには、胸を締めつけるものがありました。
モニカ・ベルッチ(TV番組『ふしぎの国』の司会者役)は、特にウィッグと衣装を脱いでリラックスしている場面での演技に、ウルトラフェミニンな魅力が溢れています。

 

kokuinosikaku

(C) 2015 Spot Films, Sil-Metropole Organisation Ltd, Central Motion Picture International Corp.

形なければ影もなく、音なければ響きなし。

2015年 カンヌ国際映画祭≪監督賞≫受賞作品

黒衣の刺客』 (台湾=中国=香港=フランス合作/108分)
9.12 公開。www.kokui-movie.com

【STORY】 唐代の中国。ある日、13年前に女道士の下に預けられた 隠娘(インニャン)が戻ってくる。両親や側近たちは 涙を流し迎え入れるが、美しく成長した彼女は 完全な暗殺者に育て上げられていた。標的は 暴君の田季安(ティエン・ジィアン)。彼と隠娘は かつて許婚同士であった。どうしても田季安に止(とど)めを刺せない隠娘は、暗殺者として生きてきた自分に情愛があることに戸惑う。「なぜ 殺(あや)めるのか」と、その運命を自らに問い直す。幾度となく窮地に追い込まれた隠娘は、遣唐使船が難破し 鏡磨きをして暮らす日本青年に助けられる…。(プレスブックより。一部 省略 & 加筆)

ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品『悲情城市』(1989)の 候孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が、8年振りにメガフォンを取った最新作。主役の隠娘を演ずるのは モデル出身の 舒淇(スー・チー)、日本青年を演ずるのは 34歳になったという 妻夫木 聡、田季安役は『レッド・クリフ』シリーズで国際的人気を得た 張震(チャン・チェン)。

簡潔に言うと、本作は意外なほど悠然とした武侠映画。アクションシーンはドラマの間に挟み込まれる形の上、刺客が宙に舞い上がったりする類の派手な演出は どこにも見当たりません。また、刺客としての技は既に完璧なレヴェルに達していながら、情を断ち切るコトができない性格の隠娘を主人公としている点も、武侠映画として異色です。

個人的に とても気になったのは、ほとんど全てのカットに於いて、画面が静止していないコトでした。ゆっくりとキャメラが横に、時には上下に、被写体を なめるかのように 少しだけ動くのです。最初のうちは、その動いた先に 誰か or 何かが 隠れているのでは? などと注意しながら観ていたのですが、間もなく、動いて止まったフレームの構図が 美しく決まる瞬間を、ホウ監督は狙っているらしい…と気づきました。小津安二郎監督の敬愛者だと聞くホウ監督の作品として、コレは理解しがたいところです。
しかし、息を呑むほど美しい二場面が 僕の眼に焼き付きました。ひとつは プロローグの中のワンカットで、断崖絶壁のような山の上に佇む 女道士の屋敷への長い石段を、隠娘が登って行く墨絵風のヴェリーロングショット。もうひとつは、妻夫木 聡が 最初に画面に現れる場面…、清流の水を竹筒に汲んでいる彼の 滝の下のロングショット。その水の澄んだ青さと 周囲の草木と川石の緑色の階調との絶妙な美しさ。これらのシーンは 他の国の映画では 決して観るコトは かなわず、また、ホウ監督独自の美学だと 心から感服した次第です。

 

次回の試写室便りは、『ヒロイン失格』etc について、9月1日頃に配信の予定です。では!

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 


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