あと13分 早ければ、
世界は変わるはずだった。
ヒトラーが最も恐れた
〝平凡な男〟の 驚愕の信念とは?
戦後70年を経て 今 明かされる、
ドイツ政府が隠し続けた衝撃の感動実話。
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』
(ドイツ/114分)
10.16より公開中。
13minutes.gaga.ne.jp
【STORY】 1939年11月8日、恒例のミュンヘン一揆記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く切り上げた。その後、仕掛けられていた時限爆弾が爆発―― ヒトラーが退席して13分後のことだった。その爆弾は 精密かつ確実、計画は 緻密かつ大胆、独秘密警察ゲシュタポは 英国諜報部の関与さえ疑った。しかし、逮捕されたのは、36歳の平凡な家具職人、ゲオルク・エルザー。彼はスパイどころか、所属する政党もなく、たった一人で実行したと主張。にわかには信じがたい供述――。それを知ったヒトラーは 徹底的な尋問を命じ、犯行日までの彼の人生が 徐々に紐解かれていく。(試写招待状より)
アカデミー賞®外国語映画賞にノミネートされた『ヒトラー ~最後の12日間~』の オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の最新作。
主人公の ゲオルク・エルザー(1903-45)とは? プレスブックによると…、
「スイス国境近くの ドイツ・ヴュルテンブルグ出身。家具、時計職人として才能を発揮。ダンスと音楽を こよなく愛し、責任感の強さと朗らかな人柄で多くの女性を魅了した。傾倒する政党はなかったが ナチスを強く否定していた。彼が計画したビュルガーブロイケラー爆発事件は、一労働者による単独犯行であることや 戦争突入への早期予見など、〝ワルキューレ作戦〟をはじめ、他の40以上あったヒトラー暗殺事件の中でも特異性を放つ。逮捕後は ヒトラーの死の直前まで収容所で生かされ、処刑後も ドイツ政府が彼の存在を隠し続けていた理由は、諸説ある」。文中の ビュルガーブロイケラーとは、1939年11月8日のヒトラーの演説会場となった 大ビアホールの名称です。
映画は、エルザーが ビュルガーブロイケラーに時限爆弾を仕掛ける場面に始まり、1945年4月9日に処刑される場面で終ります。その間に、逮捕されたエルザーが 拷問にかけられたり 自白剤を注射されたりする場面があり、また それらの間を縫うように エルザーの過去が映し出されます。進行形の場面は 展開が比較的 早く、回想場面は そのスピードを遮るような形で、エルザーが ごく普通の男であるコトをキメ細かく描いていきます。たゞ、彼がヒトラー暗殺を決意するに至る動機の描写が、些か稀薄だったのでは という気が僕はしました。
エルザーの信念の強さと 恋人や友人を思いやる気持ちの描写と共に印象的だったのは、彼の住む村に 影響力を強めてくるナチスの様子…、〝ユダヤ人お断り〟の標識が立ち始める場面、ホーソンの『緋文字』にあるような 痛々しい見せしめの場面、伝統的な村の〝収穫祭〟が ナチスのイベントと化している場面等々。
監督は、「今を生きる我々が エルザーから学べるコトは、『これ以上は従えない、自分の良心と折り合いがつかない』と立ち上がる勇気」と語ったそうです。Yes、この映画は、現代の日本人こそ観るべき映画なのです。
出演者は、エルザー役の クリスティアン・フリーデル(『白いリボン』『チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~』(通信(125))に出演)を筆頭に、全員が適役を好演。また、出演場面は僅かながら、エルザーと親しい間柄となる ナチスのフランツという男の登場に独特な味があり、ヒトラー役の俳優は 顔立ちと手の動きが 本物に相当よく似ていました(2名共、プレスブックに俳優名の記載なし)。
明日に未来を感じることすら困難な
“今”を生きる すべての人に贈る、
絶望と再生の物語。
『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』の
橋口亮輔 監督、
7年ぶりの長篇最新作。
『恋人たち』 (日本/140分/PG12)
11.14 公開。
Koibitotachi.com
【STORY】 通り魔殺人事件によって妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら 裁判のため奔走する男、アツシ。そりが合わない姑、自分に関心をもたない夫との平凡な暮しの中、突如 現れた男に 心が揺れ動く主婦、瞳子。親友への想いを胸に秘める同性愛者で、完璧主義のエリート弁護士、四ノ宮。不器用だが ひたむきに生きる 3人の〝恋人たち〟が、もがき苦しみながらも、人と人との つながりをとうして、ありふれた日常の かけがえのなさに気づいていく。(プレスブックより)
たしか 昔、『恋人たち』という同名のフランス映画があったと記憶していますが、本作は ロマンティックな恋愛モノでは全くなく、恋ごころを捨てられずに生きている三人の主人公たちの日常の物語。非常にリアルで生々しい、嘘や綺麗ごとが一切ない内容。セックスシーンがある〝映倫PG12指定〟だから という意味ではなく、コレは精神的に大人でなければ、ついていけないだろうと思える映画です。
故・淀川長治氏(生前は誰もが知っていた映画評論家)は、橋口監督のデビュー作『二十才の微熱』(1992)を観て、「ヴィスコンティや溝口(健二)と一緒で、あなたは人間のハラワタを掴んで描く人だ」と監督に言ったそうですが、その言葉には 僕にも同感できるものがありました。
最初のうちは、「自分自身を含め、自分と親しい間柄の人たちの中には、存在しない人物たち」と思いながら観ていたのですが、徐々に どこか重なる心情の存在を感じ始め、特に 台詞を聞き逃さないようにと、全神経を集中して観るようになっていきました。
最も激しく心を揺さぶられたのは、後半、アツシ(篠原 篤)の無断欠勤を心配して会いに来てくれた職場の先輩(黒田大輔)とアツシとの会話の場面、及び アツシが亡き妻の位牌の前で 泣きながら思いのたけを語るラスト近くの場面…。また、人を疑うコトを知らず、夢を捨てずに生きている瞳子(成嶋瞳子)にも、いとおしく思える部分が多々ありました。たゞ、余りにも自己中心的な四ノ宮(池田 良)に関しては、可哀想なところはあるにしても、〝ひたむきに生きる〟人物とは言い難い という気がして…。
橋口監督作品を初めて観るという方の中には、もしかしたら 途中で席を立ちたくなる人が いるかもしれません。でも、微かな救い・希望の光が差し始める後半以降は、画面に のめり込んで観るコトになるはずです。この映画には、人間に対する 非常に深い愛情が 込められているからです。
橋口監督は、本作に関するインタビューで、次のように語っています。
「…この映画の中では 誰の問題も解決しません。でも、人間は 生きていかざるを得ないんですよね。映画を作るうえで、僕は 閉じた映画では 駄目だと思っています。どんな悲しみや苦しみを描いても、人生を否定したくないし、自分自身を否定したくない。生きている この世界を肯定したい。だから、最後には 外に向かって開かれていく、ささやかな希望を ちりばめたつもりです。人の気持ちの積み重ねが、人を明日に繋いでいくんじゃないかなって。」(プレスブックより抜粋)
映画館で 泣き、笑い、ドキドキして、
知らない世界に憧れた。
122年続いた本物の映画館で撮影!
『シネマの天使』 (日本/94分)
10.31 広島先行公開、
11.7 全国公開。
cinemaangel.jp
【STORY】 老舗映画館の大黒座が閉館することになった。そこで働き始めたばかりの新入社員 明日香(藤原令子)は、ある夜、館内で謎の老人に出会うが、彼は奇妙な言葉を残し、忽然と消えてしまう。バーテンダーのアキラ(本郷奏多)は、いつか自分の映画を作りたいと夢見ている。大黒座の女性支配人(石田えり)は、閉館への反対を押し切って気丈に振るまっていた。泣いても笑っても、もうすぐ、大黒座は なくなってしまう…。劇場の壁という壁が、町の人々が書いたメッセージで埋まっていく。そして ついに閉館の日。スクリーンに最後の映画が映しだされると、明日香の前に、あの謎の老人が再び現れ…。長い歳月の間、人々に愛されてきた映画館が、最後にくれたサプライズとは――。(プレスブックより)
本作の舞台となったのは、広島県福山市に去年まであった 日本最古級の映画館「シネフク大黒座」(1892年に芝居小屋として開館、後に映画館に移行し、2014年8月に閉館した)。コレは取り壊しが決まった劇場の姿を映像に残すため、閉館から取り壊しまでの約半月の間に撮影された劇映画です。監督・脚本・編集は、広島県在住の時川英之。本作中の閉館セレモニーや解体工事の様子は、実際の映像を使用。館内の壁に観客が残した多数の手書きのメッセージも、全て実物です。
試写初日、上映前に挨拶をなさった時川監督によると、最初は 閉館する「シネフク大黒座」のドキュメンタリー映画を作ろうと考えていたそうです。「しかし 劇場スタッフの熱い思いに気づき、心を動かされ、大黒座の物語・劇映画を作って、全国の大勢の人々に観ていたゞくコトができたらと考えた…」とのコトでした。『シネマの天使』は、そうした大黒座のスタッフと、映画製作スタッフとの熱意によって完成された作品です。
映画好き・映画館好きの読者なら 観ずにはいられないと思いますし、観れば 各人が それぞれの感慨を味わうコトになるでしょう。
僕が特にジーンとさせられたのは、大黒座支配人(石田えり)に「閉館を思い留まれ。建て直しに必要な金なら 俺が用意してやる」と 何度も説得に訪れた豊下(若い頃、やくざの世界に身を置いていたという中年の男性。演ずるのは 岡崎二朗)が、彼の最後の出演場面で つぶやく台詞…、
「(やくざとして)『こんなコトまで?』と思うようなコトをした日は、決まって大黒座に行きとうなるんや。俺にとって 大黒座は、教会みたいなもんやった」。
この台詞・この場面で、僕は突然、大粒の涙を こぼしました。立場は全く異なりますが、映画館から家に帰って鏡を覗いた瞬間、いつもとは相当違う、洗い清めたような自分の顔つきに驚くというコトが、度々あったのです(初めて それに気づいたのは、小学校4年生の時でした)。この場面の豊下 = 岡崎二朗の顔と台詞を、僕は絶対に忘れたくない。
出演者として立派だなぁと感じたのは、石田えり。この映画を 一番 しっかりと、しかも 決して力むコトなく 支えていたと思います。謎の老人役の ミッキー・カーチスも 適役ながら、シナリオに もう一段の工夫がなされていたならと、少し惜しい気がしました。
次回の試写室便りは、『起終点駅 ターミナル』『FOUJITA』『パリ 3区の遺産相続人』について、11月3日頃に配信の予定です。では!
アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
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ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。 『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |