コワモテの剣豪×猫のツンデレ?
やがてそれは、猫派VS.犬派一家の江戸中を巻き込む大抗争に!!
『猫侍』(日本映画/100分)
3.1 公開。http://nekozamurai.info/
【STORY】 舞台は幕末の江戸。斑目久太郎は妻子を故郷に残し、数年前に この地に流れてきた剣客だが、仕官が叶わず傘張りの内職で食いつないでいた。ある日、彼が暮らす のどかな長屋に、ぶっそうな一群がやってくる。それは犬派の米沢一家で、若頭の三郎太は斑目に、敵対する猫派の相川一家の親分の暗殺、ではなく、親分が可愛がっている猫の暗殺を依頼する。武士のプライドを傷つけられながらも 金に釣られて暗殺を引き受けた斑目だったが、その猫・玉之丞の つぶらな瞳に見つめられるや否や、彼の目尻はデレ~え。“まだら鬼”の異名を持つコワモテの剣豪が、初めて“癒し”を知った瞬間だった。結局、玉之丞を斬れずに こっそり連れ帰った斑目は、玉之丞に振り回されながらも世話をし始める。(プレスシートより。一部省略)
猫好き・動物好きの枠を超えて 支持層を大きく広げている連続TVドラマの映画版。主要キャストは そのままに、映画用のオリジナル・シナリオで撮り下ろされています。ほのぼのとした緩やかな雰囲気の中に、猫派VS.犬派の抗争や剣豪同士の対決が盛り込まれた内容で、昭和30年頃までの“お正月映画”のような味を感じさせるところが僕は好き。But、「まじ?」という台詞が入るなど、作りは相当現代的です。
深刻な事態に陥っているワケでも お天道様が まぶしいワケでもなさそうなのに、いつも眉間に深い縦ジワを寄せている久太郎役の北村一輝が適役好演。シリアスなタッチと とぼけたタッチのバランスが良く、「怖かったろう、うちに帰ろう」と玉之丞に言う場面や、玉之丞と目を合わせながら ちょっと微笑する場面等が特に印象的でした。玉之丞役の猫は、キャメラの前に無理矢理立たされている感じも なくはないのですが、目を見開いて久太郎の様子を伺う表情等が とても可愛らしい。
欲を言えば、端役陣の演技に もう一段の味があれば、この映画は もっと面白くなったはず。また、エンドロールの最後にアクセント的に入る「猫侍!」という一言…。あれがなければ、もっと余韻を楽しめたはずです。
P.S. この映画が好きな皆さんに、昔々の時代劇映画を2本オススメ。
東宝の『昨日消えた男』と、大映の『まだら蛇』。ちょっとorかなり怖くて、ドキドキ・ワクワクするほど面白い封切当時の大ヒット作。日本映画を代表するスター達の競演も見ものです。猫は出ていなかったと思うけれど。
一流のシェフになるより 大切な約束がありました――
有名アーティストになるより 大切な夢がありました――
『最後の晩餐』 (中韓合作映画/103分)
3.1 公開。bansan-movie.com
【STORY】 「5年後に会いましょう」。突然飛び出した初恋の人からの“別離契約”。永遠に続くと思っていた笑顔の日々、そしてウェディングドレスの約束が…。でもそれは、夢を叶えるための たった5年の別れのはずだった。果たして、2人が夢を叶えた再会の時、約束は守られるのか? 5年間の別れには どんな意味があったのか? 大切な人が自分のためだけに作ってくれる思い出のスープ。そこに秘められた本当の意味を知った時、優しい涙が流れ出す――。(試写招待状より)
北京と上海を舞台とした純愛映画。可愛くて ちょっとオシャレで、笑いも誘うけれど 涙がポロポロこぼれるという、純なタイプの女の子達に好まれそうなストーリー。中国では既に約30億円という興行収入を記録、中韓合作映画史上最高のヒット作となっているそうです。
僕は“受けを意識した演出”が少々気になって、感情移入が中途半端になってしまったのですが、リー・シン(エディ・ポン)が大人の男に成長して行く様子と、チャオチャオ(バイ・バイホー)を勇気づけるオネエ言葉の親友:マオマオ(ジアン・ジンフー。完璧にスキンケアされた ゆで卵肌!)の徹底的な優しさに惹きつけられました。また、リー・シンの婚約者(?)を演ずるペース・ウー(中華圏最高の美人スター)の美しさと華やかさと上品さは、真に圧倒的でした。
理屈抜きで“泣ける映画”が好きな皆さんにオススメ。予備知識を あまり持たずに観に行ってください。
ありふれた男の ありふれた日常に、
ささやかな幸せを もたらす値千金の回り道。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 (アメリカ映画/115分)
2.28 公開。www.nebraska-movie.jp
【STORY】 “モンタナ州のウッドロウ・グラント様 貴殿は100万ドルに当選しました”――誰が見ても古典的でインチキな手紙を、すっかり信じてしまったウディは、はるか彼方のネブラスカ州リンカーンまで、歩いてでも賞金を取りに行くと言って きかない。息子のデイビッドは、大酒飲みで頑固な上に 年々思い込みが激しくなっていくウディとは距離を置いていた。だが、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せ、4州にわたる旅へ出る。行く先々で騒動を起こすウディのおかげで、旅は回り道ばかり。途中に立ち寄ったウディの故郷で、賞金をめぐる騒動に巻き込まれながらも、デイビッドは想像すらしなかった両親の過去と出会う――。(プレスブックより。一部省略)
どちらかと言うと地味な存在の小品ですが、中身は第一級のヒューマンドラマ。
骨折り損を承知の上で出発した旅の終りで、父親(ブルース・ダン)に改めて敬愛の念を覚えながらも、幼い子供に対するような温かい まなざしを向けるデイビッド(ウィル・フォーテ)…。この父と息子の立場が半分入れ替わるような微妙な描写に、僕は胸が締めつけられる思いでした。ウディは認知症が始まっているらしい(と思う)ので、この旅が少しでも遅かったなら、こうは行かなかったかもしれません。
“Eメール”という言葉が出てくる場面で「現代の物語だ」と気づきましたが、モノクロ・シネマスコープの映像は ’70年代の“ニュー・シネマ”のイメージを漂わせ、ストーリーの展開は正統的、奇をてらった演出は皆無です。試写招待状を受け取った時、「ハートウォーミングタイプの甘っちょろい映画の可能性もあり」と僕は考えてしまったのですが、その心配は無用でした。真面目でいてシリアス過ぎず、コメディのタッチも感じられる作品です。
アンサンブルが見事な演技陣は全員が称賛に価しますが、個人的に僕が一番惹かれたのは、ネブラスカ州ホーソーン(ウディの生まれ故郷)で 小さな新聞社を営んでいるペグ(アンジェラ・マキューアン)という年配の美しい女性でした。実はペグはウディの かつての恋人で、デイビッドはペグから父の若かりし日の話を聞き、朝鮮戦争時代の父の写真が載った新聞を見せてもらうという偶然の機会に恵まれます。「なぜ父とは結婚しなかったのですか?」という問いに、微笑しながら「私は一線を越せなかったの」と静かに語るペグ(彼女が若い娘だったのは、「結婚するまでは処女を守る」という道徳観が まだ残っていた時代)。ついでに記すと、彼女は「夫に先立たれ、現在は新聞社を ひとりで切り盛りしているが、孫も数人いて、それなりに幸福よ」という意味のコトをデイビッドに話します。このシーンでの ふたりの会話・表情・雰囲気が秀逸で、デイビッドは「彼女に会えただけでもムダ骨にならなかった」と感じたはず。この辺りからラストに向けて ほゞ一直線の展開となるのですが、“父と息子”という関係を“読者のあなたと あなたの両親”に当てはめて観るコトもできるのでは? と思います。
監督は、『パリ・ジュテーム 「14区」』や『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン。彼は現代に於ける、“最良のセンチメンタリズムの持ち主”かもしれません。
『ネブラスカ』は、心ある皆さんに心からオススメしたい作品です。ぜひ観てください。
P.S. 次回の試写室便りは3月5日頃、『それでも夜は明ける』 『ドン・ジョン』 『ジョバンニの島』についてレポートする予定です。
試写に行くコトが出来なかった『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と『ダラス バイヤーズ クラブ』は映画館で観るつもり。この2作、皆さんも御注目を。
ビューティ エキスパート 大高 博幸 |