世渡りは下手だが 誠実な男が立ち上がる時、仲間たちの想いが溢れ出す――
実在の藩を舞台に、笑って、泣けて、熱くなる 感動の歴史エンターテインメント!
『超高速! 参勤交代』 (日本映画/119分)
6.21 公開。cho-sankin.jp
【STORY】 「5日以内に参勤交代」を命じられた弱小貧乏藩。幕府の無理難題に<参勤交代>で挑む!?って、どうやって…。時間がない! 8日は かかる道程を実質4日…。カネがない! 参勤から帰ったばかりで貯蓄ゼロ! 人もいない! 7人で大名行列に見せかける?! しかも、殿はトラウマ持ち。突如現る謎の案内人は、いわくありげな抜け忍。行く手を阻む公儀隠密、さらに御庭番衆、百人番所まで…。 (試写招待状より)
キャッチコピー(上記)に嘘偽りなしの歴史エンターテインメント。楽しく笑って泣けますが、笑いながら涙が にじむという場面も多々あって、そこが本作の一番の魅力。お気楽にフザケているようでいて、その内側に真面目な人間味が潜んでいる…、そんな一種のバランス感覚が僕は好きです。
おいしい大根が獲れる 平和な田舎の貧乏藩のお話で、藩の者たちは殿様(佐々木蔵之介)を筆頭に 私利私欲のない お人好しばかり。そんな彼らが“藩・お取り遺しの危機”に 一丸となって立ち向かう姿が、屁理屈屋さんを含めて 全ての観客を惹きつけます。
監督は『ゲゲゲの鬼太郎』等で知られる本木克英で、気負うコトなく真っすぐに撮り上げたという感じ。僕は幼い頃、勧善懲悪モノの時代劇をハラハラ・ドキドキ・コーフンしながら観るのが大好きでしたが、本作は そんな楽しさを久し振りに満喫させてくれました。
観終えて帰る頃には、入場券の半券が“勇気のオフダ”に化けているような感じ…、皆さん 分かっていたゞけますか?
出演者も全員揃って好演。特に印象に残ったのは、宿場の口汚い飯盛り女・実は心は乙女の お咲役:深田恭子、なぜか旅先案内人を買って出る一匹狼の忍者役:伊原剛志、江戸幕府の老中首座(善人)役:石橋蓮司、金山奪略を企む冷酷非道な家老役で、「この世は“生まれ”が全てよ」などと抜かしやがる陣内孝則!
どんな時も希望は消えない――。
植民地、香港。
貧しい水上の民が手にした幸福とは。
巨匠 イム・ホー監督、待望の新作!
貧しい蛋民(たんみん)に売られた赤ん坊が辿る 波乱の人生。
実話に基づく珠玉のヒューマンドラマ。
この運命を生きる。
『浮城(うきしろ)』 (香港映画/104分)
6.21 公開。www.pm-movie.com/ukishiro
【STORY】 1940年代末、イギリス兵と香港女性の間に生まれた子供が、流産したばかりの貧しい蛋民(たんみん。水上生活者)の夫婦に買い取られた。赤ん坊は 華泉(ワーチュン)と名付けられ、船の上で成長。人とは違う外見から“合いの子”と揶揄される彼を、母は、その後 生まれた弟妹たちと 分け隔てなく可愛がった。
ある日、華泉は カトリックの牧師から勉学を勧められ、母の後押しもあり、船を降りて教会の夜学で文字を学び始める。間もなく 父が海で命を落とし、自分が買われた子だと知った彼は、長男として身を粉にして働き出す。
やがて 憧れの東インド会社に雑用係として採用され、イギリス人の上司から差別的な言葉を投げつけられながらも、たゆまぬ努力を重ねて次第に頭角を現し、順調に出世の道を歩み続けていた。
その頃、アメリカで建築学を学んだエリート女性の菲安(フィオン)が 仕事のパートナーとして現れる。菲安は 上流社会での振る舞いを華泉に教え、彼も その知識を吸収していく。ついには中国人として初の重役にまで上りつめたが、華泉は常に どこかで「自分は何者なのか?」と問い続けていた。
時は流れ、香港が中国に返還される時がやってきた。かつて赤ん坊の自分が売られた場所を訪ねた華泉は、自らの出生の秘密について聞かされる。それと同時に、改めて 育ての母の 深い愛情を知るのだった。 (宣伝用チラシより)
この映画は 宣伝予算が非常に限られているようで、マスコミ試写は僅か2度しか行われませんでした。従って、メディアでの紹介や批評文を目にする機会は 相当少ないだろうと想像します。しかし『浮城』は真に傑出した作品で、僕は心底感動…、控えめに言っても、この10年間に観てきた全新作中のベスト・オブ・ベストです。
この映画には感じたり考えさせられたりするコトが複合的にあり、今、簡潔に まとめられない もどかしさと、この拙文が 作品の価値を下げてしまうのでは という不安を感じているのですが、毎回 このコラムを読んでくださっている方々には、とにかく是が非でも観てほしいと願っています。
うまく言えませんが、敢えて一言で表現すると、本作は「人間が まともに幸福に生きて行く上で 何よりも大切なのは、深く強い愛情である」と、静かに力強く訴えている という印象を受けました。加えて言えば、どのような状況に置かれたとしても、悲観したり 卑屈になったり 捨てばちになったりしない心、掛け値なしの自尊心、揺ぎない信念、感謝する心の尊さ・美しさを示していると感じました。
詳しく説明しておきたいのは、まず、1分前後の短いプロローグ。暗い青1色に調色された嵐の夜の海…、稲妻が轟き 荒れ狂う海上で、妊娠7~8ヶ月と想われる中国服姿の女性が 必死で櫓を漕いでいる。そして船が一層激しく傾いた瞬間、彼女は 突然 流産してしまう。「我が子よー!」と叫び 号泣しながらも、櫓を握る手を緩めるコトはできない…。
このプロローグは 劇的でありながら幻想的とも言える映像表現が なされていて、監督のイム・ホーが 真の芸術家であるコトを明確に感じさせます。
メインタイトルが終わると、オレンジレッドとゴールドに光り輝く媽祖様(まそさま。神社のような場所に まつられている、観音様のような像)が映し出され、流産したプロローグの女性が、生後間もない“合いの子”を ひとりの老婆から500ドルで買い取る。ためらいながらも“合いの子”に乳を含ませた彼女は、“我が子”に対するような愛情を自覚する。その時、柱の陰から うら若い娘が歩み寄り、片方の耳輪を“合いの子”の手に乗せ、無言のまゝ立ち去って行く…。映画は以後、その赤ん坊の50年間の軌跡を映し出します。
次に主要登場人物について。
“合いの子”の母となった女性は、布 錦萍(ボウ・ガムピン)。彼女は その後、5人の子宝に恵まれるが、布 華泉(ボウ・ワーチュン)と名付けた“合いの子”を、長男として大切に育てる。
成長した華泉は、東牧師の勧めと尽力を得て、早朝から夕刻までは陸地で働き、夜は夜間学校へ通い始める。間もなく父親が海で命を落として経済的に逼迫すると、力仕事、掃除、洗濯、子守等のアルバイトを掛け持ちし、精一杯 家計を助けようとする。
東(トン)牧師。華泉の幼い頃から 布一家の面倒を見てきた教区の牧師。大人になった華泉に勉強の機会を与えただけでなく、後々まで支援を続ける恩人。華泉は 東牧師の「試練が多いほど、人は強くなれる」という言葉を支えに、幾多の困難を乗り越え続ける。
華泉の妻となる娣(タイ)。残飯収集を生業としていた蛋民の女性で、10代半端の頃から華泉とは恋仲だった。結婚後、二児を もうけるが、華泉がエリートの階段を上り始めるにつれ、ひとり苦悩を抱えるようになって行く。
英国の名門企業:東インド会社の重役で、真の英国紳士:マッコーデル。彼は 華泉の忠誠心と人間性を認め、華泉に出世への扉を開けさせる。
東インド会社と協力関係にある切れ者のビジネスウーマン:黄 菲安(ウォン・フィオン)。L.A.で建築学の修士号を取得した若く美しい女性で 生意気そうにも見えるが、華泉に国際感覚や上流社会でのマナーを教えて援助する。しかし、そんな彼女も、少女時代の両親の不仲に起因する、あるトラウマを克服できずにいる。
他に、船元の親方、夜学で親友となる蛋民の劉(ラウ)、東インド会社の心ない管理職者のディックが、重要な脇役として登場します。
ひとつ、決して間違えてほしくないのは、華泉が立身出世そのものを人生の目標とする類の人間では全くないというコト。母と弟妹たちの生活を支えるために全力を尽くす…、それが出世の道に つながって行くというコトなのです。
繰り返しになってしまいますが、混血であるがために差別・卑下され、自分は何者なのかという疑問に付きまとわれ、経済的な事情から一家が離散状態になってもなお、悲観したり 卑屈になったりするコトなく、希望を持って ひたすら前進しようとする華泉の一途な性格…。妻の苦悩の原因が自分にあったコトに気づき、それを取り除こうとする誠実さ・優しさ…。さらにキメの細かい念入りの構成と 華泉の簡潔なモノローグから、育ての母の愛情、自尊心、感謝の心、「これも運命だ、やるしかない」というガッツまでを、全て受け継いでいるように見えてくるところにも 感動させられました。
華泉役のアーロン・クォックは、エキゾチックな美形の上に表情が豊かで繊細(チラシの画像だけで判断しないでください)。1990年代に歌手としてデビューし、“香港四天王”のひとりとして一世を風靡…、俳優としても数多くの映画に出演し、台湾の金馬奨最優秀男優賞を受賞したというキャリアの持ち主。
母親役は、前半の若い時代をジョシー・ホー、後半の中年時代以降をパウ・ヘイチンが演ずるというダブルキャスト。
娣役はチャーリー・ヤン、菲安役はアニー・リウ、その他の俳優の名は不明ですが、それぞれが 好演という以上の演技を見せています。
全篇にわたり、僕は何度も胸を詰まらせながら観ていましたが、ラスト近くの 教会の場面で、ついに涙を こらえ切れなくなりました。華泉と(おそらく東牧師と)我々観客だけが一瞬で理解できる、ある光景を目撃するコトになったからです。たゞし、本作は“お涙頂戴映画”ではありませんし、重要な描写を1コマでも見落とさないために、極力 泣かずに観てほしい。
公開は、6月21日(土)から東京のシネマート六本木(Tel.03-5413-7711)、7月5日(土)から大阪のシネマート心斎橋(Tel.06-6282-0815)。その後、全国順次公開の予定です。上映日数は 多分 長くはないはずなので、観ると決めたら 見逃さないために、早めにスケジュールを組んでください。僕は6月21日に、観客として、もう一度 必ず観に行きます。
書きたいコトは まだまだ あるのですが、長くなりすぎるので、この辺りで終わりにしておきますね。
では!
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |