早くに両親を亡くしてから、一軒家で ずっと一緒に暮らす、小野寺進と より子。
お互いの幸せを心から願いすぎるあまり、やることなすこと空回りしてばかりの姉と弟。
そんな 人生に不器用な2人に、突然、恋のチャンスが訪れた!?
『小野寺の弟・小野寺の姉』 (日本/114分)
10.25 公開。www.onoderake.com
【STORY】 早くに両親を亡くしてから、年季の入った一軒家で ずっと暮らしている 小野寺進と より子の姉弟。一汁三菜の朝食を一緒に食べ、休日は一緒にスーパーの特売に出かける。いい年頃な ふたりの こんな生活は、端から見れば やや気のどくに映るかもしれないが、ふたりにとっては至って自然。ひたすら穏やかで和やかな日々を過ごしていた。そんなある日、小野寺家に1通の誤配達の郵便が届く。その手紙をきっかけに 進とより子、それぞれの恋と人生が動き始める――。(プレスブックより。一部省略)
向井理と片桐はいりの映画初共演作で、弟と姉を演じているところが まず面白い。一見 似ていないようでありながら、話が進むうちに いかにも姉弟という感じがしてくるので、このキャスティングは大成功。
ふたりの関係は 少々特殊とも言えるのですが、「私の家では 男と女の ふたりきょうだい」という方々には 身につまされる内容(僕は3回ほどウルウルしました)、「私は ひとりっ子」という方々には 知らない世界(?)を覗き見るようでありながら、最終的に満ち足りた思いに包まれるコトでしょう。
良くも悪くも過去に引きずられる性格の進は33歳、入浴剤の調香師として“花王”さんのような会社に勤務。いまひとつ 首が座り切らないような体の動きと、「困ったな、マイったな」という瞬間の表情に 向井理独特の雰囲気がよく出ていて、常に寝グセのある髪も 彼がしていると愛らしい。
料理上手で、スーパーの安売りだけは絶対に見逃さない より子は40歳、商店街のメガネ屋の店員さん。数十年も髪形を変えたコトがなく、過去の ある出来事のせいで 恋には臆病。中学生の頃のケガが原因で 前歯の1本がグレーに変色しているものの、本人は 少しも気にしていない様子…。この図太そうでいて実は繊細な姉役を、片桐はいりが説得力を持って好演。今までは特に好きでも嫌いでもなかった彼女を、僕は突然、大好きになりました。
助演陣で印象的だったのは、メガネ会社の営業マン:及川光博と、進の上司:大森南朋。
及川光博は、女ごころを理解しているように見えて、実際は その逆という 予想を裏切る役どころ。少々ダサイ感じのキャラクターを 程よく巧みに表現しています。
大森南朋は、『利休にたずねよ』(通信(191)で紹介)とは完全に異なる、少々コメディタッチの軽い役柄を演じていて、俳優としての幅の広さを感じさせました。
本作は、“本当の優しさ”と “ちょっと間違った優しさ”等について、しばらく考えさせられるような要素をも含んでいて、クチコミでヒットしそうな予感あり。それはともかく、じっくりと観てほしい佳作です。
監督(原作&脚本も)は、コレが初監督作品となる 西田征史(にしだ まさふみ、39歳)。繊細で温かい、優しい性格の人なのでは?と 僕は感じました。
囚われの身となったベルは、
恐ろしい野獣の、悲しい瞳に惹かれていく。
彼が野獣になった本当の理由
――その秘密は “真実の愛”だけが、解き明かす――
『美女と野獣』 (フランス=ドイツ合作/113分)
11.1 公開。beauty-beast.gaga.ne.jp
【STORY】 バラを盗み、命を差し出せと言われた父の身代わりに、野獣の城に囚われた美しい娘 ベル。死を覚悟するも、野獣はディナーを共にすること以外、何も強要しない。やがてベルは、野獣の恐ろしい姿の下にある、もう一つの姿に気づき始める。かつて その城で何があったのか、野獣が犯した罪とは? いま、真実の愛が、隠された秘密を解き明かしていく――。(宣伝用チラシより)
この『美女と野獣』は、数多くの絵本・映画・アニメーション等々が 描いて来なかった部分――、なぜ王子は野獣にされてしまったのか、その本当の理由、野獣の隠された “過去”に光を当てた点がユニーク。脚本・監督のクリストフ・ガンズは、ヴィルヌーヴ夫人によって1740年に執筆された“オリジナル”の長編小説を紐解き、それをベースに脚色したとのコト。古くて新しい この視点が、ファンの興味を そゝります。
幽幻な雰囲気や芸術の香りの高さに於いては、ジャン・コクトー監督、ジャン・マレー & ジョゼット・デイ主演の1945年版に当然軍配が上がりはするものの、本作は それとはまたベツの 華やかでスペクタキュラーな おとぎ話映画となっていて、大人にも子供にも歓迎されるコトは間違いないでしょう。
肝心の“本当の理由”に関しては触れずにおきますが、観どころは盛り沢山。ベルの父親の商船が嵐の夜の海で難破する場面や、吹雪に見舞われて死に瀕した彼が 森の奥に佇む古城へと導かれるように入って行く場面等々、導入部から誰もが画面に引き込まれてしまいます。
ひとつ 残念に感じたのは、野獣に惹かれて行くベルの心理的プロセスが、充分に描かれていなかったコト。トランプ占いの女性と その恋人(ベルの兄の宿敵)の場面辺りを整理した上で、ベルが野獣を心から愛するに至る決定的なシーンが用意されていたなら、本作は より充実した作品になったのではないでしょうか?
進境著しい レア・セドゥは、いわゆる“完璧な美女”というタイプではありませんが、容姿も心も美しいベルを好演。ところどころで非常に綺麗な表情を見せ、また、その豊かな胸元の美しさに、僕は驚かされもしました。
王子役のヴァンサン・カッセルは、野獣に姿を変える前と 人間の姿に戻った後との顔つきの変化を ごく自然に表現。俳優としてのイメージの幅を広げた感を受けました。
あした降る雪は、春の知らせ。
ギヨーム・ブラック監督が贈る、人生讃歌!
『やさしい人』 (フランス/100分)
10.25 公開。tonnerre-movie.com
【STORY】 フランス・ブルゴーニュ地方、まもなく冬を迎える静かな町 トネール。少しだけ名の知れたミュージシャンのマクシムは、殺伐としたパリの生活から逃れ、実家に戻ってくる。しかし父親とは、どこか ぎこちない雰囲気。そんな中、マクシムは心の隙間を埋める若い女性と出会う。ワイン工場に行ったり、スキーをしたり、互いに心を通わせる2人。このまま幸せがつづくと思ったが、突然、彼女はマクシムの前から姿を消す…。(試写招待状より)
中篇『女っ気なし』で一躍注目された ギヨーム・ブラック監督の長篇第一作。
もう決して若くはなく、と言って それほど歳でもない ひとりの男を主人公とした、一種のラブストーリーであると同時に 親子の確執と絆を描いた物語。どちらかと言うと後者のほうが芯になっている感じで、年齢を重ねるとは どういうコトなのかを、ある事件を絡めて追及して行くといった展開です。
日本公開題名(原題名は地名の『トネール』)と 試写招待状のスティル(チラシと同一)から、「優しすぎるほど優しい男の人生を、しみじみと描いた映画?」と自分なりに想像して観に行ったのですが、実際は かなり違う印象でした。
確かに 本質的には 多分、優しい人。しかし、多感な人格形成期に於ける母親の死と、その前後の状況がマクシムに与えた “優しさゆえの負の感情”に付きまとわれ、今も その呪縛から解放されずにいる…。最終的には、長年の苦悶を振り切ったらしい彼の姿に、父親も観客も一応 安堵するコトになるのですが…。
正直に言うと、本作で僕が最も惹かれたのは、マクシムの父親:クロードと その愛犬(たしか カーニバル or カニバルという名前)との描写でした。元は野良犬だったという 少々メランコリックな性格のカーニバルは、なんと クロードが暗唱する詩に敏感に反応し、歌を聞くのとボール遊びが大好き。しかも普通の犬以上に従順な、極めて愛らしい性格(もしかしたら、この愛犬は、もうひとりのマクシム)。
犬好きの僕としては、ある場面で「カーニバルは死んでしまったのかも」と思い、それが最後の最後まで気になって、マクシムのコト以上に心配してしまいました。
次回の試写室便りは、『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『祝宴!シェフ』『100歳の華麗なる冒険』について、10月24日頃に配信の予定です。では!
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |