南フランスの名門レストラン VS. 庶民派インド料理店。
その “戦い”は奇跡の始まり…。
人生に少しばかりの刺激が欲しいと思っている人たちに贈る、楽しくて美味しい映画!
『マダム・マロリーと魔法のスパイス』 (アメリカ/122分)
11.1 公開。Disney-studio.jp/SPICE
【STORY】 南フランスの山間に建つミシュラン1つ星 フレンチ・レストラン「ル・ソール・プリョルール」。このレストランを切り盛りするのは、最高のサービスと味を提供することに人生をかけている厳格なオーナー、マダム・マロリーだ。ある日、故郷を追われ ヨーロッパの地で再起を果たそうと旅を続けていたインド人一家が、車の故障のために足止めを食うことになった。そこで、空き家となったレストランに興味を持った一家の父は、これを買い取って インド・レストランを開業しようと決断。ただ そこは、マダムのレストランから わずか100フィートの道を隔てた、真向いに位置していた。
一家の次男 ハッサンは 「絶対味覚」を持ち、料理名人だった亡き母から受け継いだ「魔法のスパイス」を操る 天才的な料理人だった。だが 静かな雰囲気のフレンチと対照的に、大音量で音楽を流し、強烈な匂いのスパイス料理を供す「メゾン・ムンバイ」は、マダムにとって迷惑以外の何物でもない。市場では食材の奪い合いも起こり、まさに一触即発の危機。さらに、窮地の一家を助けた縁で ハッサンが好きになった女性 マルグリットは、フレンチ・レストランの副料理長だったのだ…。(プレスシートより。一部省略)
のどかな南仏の山合いから始まる とばかり想っていたのですが、ファーストシーンは インド・ムンバイの食材市場。子供時代のハッサンが「絶対味覚」の持ち主であるコトや、彼の一家が災難に見舞われて南仏へ移動して来るまでを たゝみ込むように観せた後、マダム・マロリーが御登場…。
間もなく、「メゾン・ムンバイ」の開業前から始まった両者のバトルが激化し、卑劣な事件まで起きた末に ハッピーエンドを迎えるという内容です。
本作で いちばん良かったのは、若いふたり、ハッサンとマルグリットの端々しいロマンスでした。ハッサン役の マニッシュ・ダヤル(まつ毛が濃く長く、白目がブルーの好青年)と、マルグリット役の シャルロット・ルボン(『イヴ・サンローラン』でモデル役を演じていた女優。今回は気だての良いフランス娘らしい魅力を発散して、非常に愛らしい)の 今どき珍しい程の純粋さ・素直さには、誰もが胸を打たれるはず。
マダム役の ヘレン・ミレンと、ハッサンのパパ役の オム・プリも適役好演。いがみ合っていた ふたりが仲直りするプロセスも シンパセティックで気持ちが良く、観終えた後は 美味しいレストランに行きたくなる…、コレは そんなハッピーな映画です。
P.S.1 ホンの脇役ながら、町長役の ミシェル・ブランの存在感が秀逸でした。おとぎ話的なニュアンスを持つ このストーリーに、現実味・真実味を程良くプラスする“隠し味的スパイス”の役割を、彼は ごく自然に果たしているのです。コレって凄いコトですよね。
P.S.2 「気にしなければいい」とは思うのですが、ロングショットとして映し出される山合いの美しい風景等、「これはCG」と一瞬で分からせてしまう点は相当残念。朝もやのヴェールを かけるとかして、空気感や距離感を うまく醸成していたゞけたなら、もっと うっとりと眺めるコトができたのに…。その辺り、更なる技術の向上を期待します。
笑って・泣いて・お腹が空く!
前人未到、空前絶後の “おもてなし”エンターテインメント・ムービー!
『祝宴!シェフ』 (台湾/145分)
11.1 公開。shukuen-chef.com
【STORY】 台湾では お祝いごとがあると屋外で宴が開かれ、そこで腕を振るう 総舗師(ツォンポーサイ)と呼ばれる宴席料理人がいる。その中でも “神”と称された伝説の料理人を父に持つシャオワンは、モデルを夢見て家を飛び出していたが 夢破れ帰省。そこで亡き父がレシピノートに残した “料理に込めた想い”に心を動かされたシャオワンは、時代の趨勢で衰退の一途をたどる宴席料理の返り咲きをかけ、全国宴席料理大会への出場を決意する。しかし料理は初心者。果たしてシャオワンは父の想いを引き継ぎ、“究極の料理”に辿りつくことができるのか? (プレスブックより。一部省略)
2時間25分という長尺なので、「ボリウッド映画みたいな作品? 途中で退出したくなったら困る」と思い、僕は最後列・通路側の席で観るコトにしたのですが、それほど長いとは感じませんでした。個性豊かな登場人物たちと絶品料理の数々が、パワフルに もてなしてくれたからだと思います。
シャオワン役の キミ・シアは アイドル時代の小泉今日子似、母親役の リン・メイシウは 藤山直美似のせいか 知人のような親しみを感じさせ、シャオワンの追っかけ三人組役の お笑いトリオ:召喚獣(読みかた、不明)も どことなく可愛らしく、少なくとも下品な印象は受けませんでした。
料理は どれもが綺麗で美味しそう。特に食欲を そゝったのは “菊花貝柱蒸し”。上記の公式サイトにレシピがアップされるそうなので、皆さん、ぜひチェックしてみて。モチロン、美味しいモノ好きの誰かさんと一緒に、映画のほうも お楽しみください。
100歳になっても 未来は予測不可能。
だから人生は おもしろい!
スウェーデン発、800万部を超える大ベストセラーの映画化。
『100歳の華麗なる冒険』 (スウェーデン/115分/映倫 PG-12)
11.8 公開。100sai-movie.jp
【STORY】 スウェーデンの のどかな町の老人ホームで、ひとりの入居者が突然失踪する。この日、100歳の誕生日を祝われるはずだったアランは、ひょっこりと窓から施設を抜け出し、バスに乗って あてのない旅に出発。その道中、ひょんなことからギャングの闇資金5000万クローネの札束入りのスーツケースを入手したため、警察とギャングに追われる身となってしまう。しかし当のアランは いかなる突発的なトラブルに見舞われようとも、泰然自若として超人的なマイペースぶりを発揮。はたして彼は何者なのか。何とアランは 世界史の教科書の どこにも載っていないが、歴史上の何人もの要人と親交を持ち、20世紀における国際情勢の大きな節目に居合わせてきた “超重要人物”だったのだ…。(プレスブックより。一部省略)
奇想天外、ホラ話のようでいて 気持ちのいゝコメディ・ドラマ。主役は 映画史上最高齢ヒーロー かもしれない 100歳のおじいさん!
幼い頃に相次いで両親を亡くした主人公のアランは、少年期に独学で身につけた爆破の知識と経験を生かし、スペインのフランコ将軍を皮切りに、スターリン、トルーマン、オッペンハイマー、ゴルバチョフ、レーガンらと渡り合い、アインシュタインの おかしな弟(!?)とも親交があった稀有な人物。But、政治的野心やナショナリズムとは一切無縁の ノンポリ爆弾男。
ロードムービー調に展開する “現在”と フラッシュバックされる “過去”とを交錯させた構成も興味をそゝり、いつの間にか僕は アランに感情移入。「考えたってムダ。なるようにしかならない。人生って そんなモノよ」という 今わの際の母の教えを肝に命じ、「なにごとも なるように なるさ」という究極の楽観主義者となった彼…。その生きざまが、うらやましくさえ感じられました。
本作のユーモア感覚は スウェーデン人特有のモノらしく、誇張された喜劇的演技や演出は 皆無、すべてが普通のドラマのように写実的。だからこそ、心から笑えるといった感じです。
幼少期はベツとして、25~100歳までの75年間を演じているのは、特殊メークで老けたり若返ったりする ロバート・グスタフソン(実年齢は49歳)。彼を筆頭に出演者は全員粒ぞろいで、特に気弱なインテリ青年のベニー、近所のオジサン風のフランコ将軍、嫉妬深げな表情をチラッと見せるスターリン、象の飼い主:グニラに振られて大泣きするリッキー、事故で前頭部を大ケガしたために、まるでロボトミー手術でも受けたかのように おとなしくなってしまうギャングの凶暴なリーダー:イェッダンら、それぞれに愛すべき人間味が感じられ、それが とても良かったです。
ひとつだけ不満を述べると、ギャング一味の描写に尺を取りすぎているコト。生意気でしょうが、「もう少し観たい」と感じる程度に まとめられていたなら、さらに面白くなったのに という気がしました。しかし 全体的にテンポが良く、展開も切り替えもテキパキとしていて、僕は大いに楽しみました。TVやラジオのバラエティ or トーク番組では「全然 笑えない」という皆さんに、特にオススメしたい映画です。
次回の試写室便りは、『天才スピヴェット』について、11月4日頃に配信の予定です。では!
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |