本当に大事なのは 自由?
ショーンと仲間たちが 大都会へ冒険に!
生誕20周年にして、初の長編映画化!
『ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』 (イギリス/85分)
7.4より公開中。aardman-jp-com/shaun-movie/
【STORY】 牧場で幸せに暮らしている牧場主と ひつじのショーンたち。聡明 かつ いたずら好きのショーンは、おとぼけな牧場主に いたずらをしかけるのが大好き。それを見過ごせない おひとよしの牧羊犬 ビッツァーも、ショーンたちには手を焼いている。でも、牧場での毎日は同じことの繰り返し。そこでショーンは 仲間たちと つかの間の休暇をとれるよう 作戦を練る。いたずらは大成功したが、牧場主を乗せたトレーラーは大都会へ暴走し、ビッツァーもトレーラーを追って牧場から姿を消す。休暇の願いは かなえられたものの、後悔し始めるショーン。そこで彼は 仲間たちを伴って大都会に出かけ、牧場主を助けようとするが、街には危険がいっぱい。果たしてショーンたちは 牧場主とビッツァーに再会し、愛する牧場に戻ることができるのか!? (プレスブックより。一部省略)
このクレイ・アニメーション(粘土で作られた人形を少しずつ動かして、1コマ1コマ撮影した映画)は とっても面白く、読者全員にオススメ。ユーモアのセンスが上品かつ分かりやすく、ハラハラさせられるスリリングなシーンはベツとして、僕は全篇をニコニコしながら鑑賞…。何度かは 思わず声を出して笑ったほどです。
台詞は全くなく(何を言っているのか 誰にも決して聞き取れないモグモグした声や 笑い声はあり)、字幕は標識や看板の短いセンテンスのみ。のどかな冒頭のシーンを含めてテンポが良く、スリルも十分。カメラの移動と共にフォーカスが変わるショットの立体感など驚くほど素晴らしく、色彩は明るく美しい。また、ひつじたちはモチロンですが、登場人物たちの動きと表情にも独得の躍動感が漲っていました。
ひつじたちのシーンで一番笑えたのは、動物捕獲人:トランパーの目を くらまそうと、人間に変装して行動する一連のシークエンス。また、牧場主が毎朝、寝ボケ顔でデオドラントスプレーを使う仕草や、美容室のマダムの目の表情など、とにかく絶品。さらに、愛らしい性格にも拘わらず 歯並びの悪さから貰い手が見つからない野良犬:スリップの最後のエピソードなど、ほゝえみながら泣けちゃうハートウォーミングなテイストが、とてもとても良かったです。
観終えた後のコーヒー or 食事が、おいしく感じられるコト請けあいのラヴリーな一篇。予備知識を余り持たずに観てください。そのほうが楽しめるし、邪気のない自分自身をも再発見できると思うから。
僕は、監督の リチャード・スターザック & マーク・バートンのコンビをはじめ、製作に関わったスタッフ全員に 心から敬意を表します。彼らは 現代の イルジ・トゥルンカ。
人生どん底の2人が巻き起こした、
とんでもない事件の顛末。
それは、喜劇王が遺してくれた、最高のプレゼント!
『チャップリンからの贈りもの』 (フランス/115分)
7.18 公開。Chaplin.gaga.ne.jp
【STORY】 スイス・レマン湖畔。お調子者のエディの親友 オスマンは、娘がまだ小さく 妻は入院中。医療費が払えなくなるほど貧しい生活を送っていた。そんな時 テレビから “喜劇王 チャップリン死去”という衝撃のニュースが。エディは 埋葬されたチャップリンの柩を盗み 身代金で生活を立て直そうと、弱気のオスマンを巻き込んで決死の犯行へ。ところが、詰めの甘い計画は次々にボロを出すばかりか、ツキのなさにも見舞われて崩壊寸前。あきらめかけた時、追い詰められたオスマンが最後の賭けに出た。人生どん底の2人に 救いの手は差し伸べられるのか――。(チラシより)
永遠の喜劇王:チャップリンへのオマージュとも言える、コミカルでいてシリアスでもある騒動劇。僕は、「本作をチャップリンが観たら、お気に召すはず」と感じました。彼が一番大切にしていた人間愛で、終始 貫かれていたからです。
1977年のクリスマスに 88歳で亡くなったチャップリン。その遺体が 柩ごとスイスの墓地から盗まれたのは、翌年の3月初め。僕は 事件を知った時、驚き あきれ、いまいましく思ったコトを 今でも よく憶えています。でも、犯人が逮捕され、柩が無事に戻った経緯については、ニュースを見のがしたのか、ほとんど知りませんでした。
コレは、チャップリンの遺族の全面的な協力を得て、実話を映画化した作品。チャップリンが晩年を過ごした美しい邸宅や墓地をロケ地に、チャップリンの実の息子や孫娘も特別出演しています(5月下旬には、息子のユージンが 本作のプロモーションのために 来日も果たしました)。
映画の作りは正統的で、犯罪の顛末を描いた作品としては センセーショナルなタッチではなく、展開も幾分 緩やか。しかし 主に構成と演技のうまさによって、観客を引き込むに十分。結局は“チャップリンからの贈りもの”で ハッピーエンドとなるのですが、僕は ①オスマンと 次いでエディが逮捕される場面、②チャップリンの執事が、発見された柩の泥を ハンカチで丁寧に拭く場面、③裁判所で弁護士(チャップリンの映画に詳しい人物)が、犯人ふたりを救おうとガンバる場面で目が うるみ、④ラストシーンでは ポロポロッと涙をこぼしました。
ブノワ・ポールヴールド演ずるエディ(ベルギーからの貧しい移民)と、ロシュディ・ゼム演ずるオスマン(アルジェリアからの貧しい移民)は、それほどの悪人ではなさそうだと冒頭の場面から感じさせ、言動のみでなく、それが目に表われているところが素晴らしい。
7場面ほどに登場するサーカス団の美しいオーナー役の キアラ・マストロヤンニと、毅然とした態度が身についている執事役の ピーター・コヨーテは 物語に豊かさを与え、『シェルブールの雨傘』で有名な ミシェル・ルグランの音楽も、『ライムライト』の主題曲(チャップリン作曲)の延長のような旋律が 実にリリカルで美しい。
P.S. エンドロールが終わった直後に映し出されるオマケの一場面(ユーモアたっぷりで笑ってしまう!)も お見逃しなく。監督は、1967年生まれの グザヴィエ・ボーヴォワ。
ノルマンディーの美しい村―――。
ボヴァリー夫人は マルタンの作るパンを愛し、
マルタンは 小説さながらの “彼女の恋”を覗き見する。
『ボヴァリー夫人とパン屋』 (フランス/99分/R15+)
7.11 公開。www.boverytopanya.com
【STORY】 ノルマンディーの美しい村で 父親のパン屋を継いだマルタン。毎日の単調な生活の中で、文学だけが想像の友、とりわけボロボロになるまで読みふけっているのは、この村と ゆかりのある『ボヴァリー夫人』。ある日、向かいにイギリス人のチャールズと ジェマ・ボヴァリー夫妻が越してくる。自分の作ったパンを官能的に頬張るジェマに魅了され、彼女から目が離せなくなったマルタンは、ジェマが年下の男と不倫するのを目撃。このままでは 彼女が “ボヴァリー夫人と同じ道を辿るのでは?”と、小説と現実が入り交じった妄想が膨らんでいき…。(試写招待状より)
6年程前、月刊『美的』のコラムで紹介した『ココ・アヴァン・シャネル』(オドレイ・トトゥ主演、ココ・シャネルの伝記映画)の監督:アンヌ・フォンテーヌの最新作。マルタンを演ずるのは『屋根裏部屋のマリアたち』(通信(113))の ファブリス・ルキーニ、ジェマ役は『アンコール!!』の ジェマ・アータートン。原作は「ねこのパンやさん」で知られる英国の絵本作家:ポージー・シモンズが、フローベールの傑作小説「ボヴァリー夫人」をテーマに描いたグラフィックノベル。ちょっぴりユーモラス × かなりエロティックに描かれた一種のファンタジーで、本国フランスでは 4週連続興行成績第1位を記録。妄想と現実 + いやらしくなる一歩手前の情愛描写 + 覗き見的心理を 思う存分 楽しんだ観客たちの、クチコミでヒットしたと僕は想像…。要するに本作は、大人のための フレンチ・エンターテインメントです。
ジェマは 少女の雰囲気を残す顔と 成熟した肉体(特にバストは実に豊満)のバランスが魅惑的で、息を呑むようにして彼女を見つめるマルタンが 「何気ない仕草に、一瞬にして 10年間も眠っていた性欲が目覚めた…」とツブやくモノローグに説得力があります。
ちょっとした出来事が幾つかあった後の意外な結末には かなり驚かされましたが、僕は最後のオチが とても愉快で気に入りました。読書ホリックのマルタンの、「人生は小説どおりになるコトが多々ある」と思い込んでいる様子が巧みに描写されていたからです。フランスの映画館では、このオチの部分で 大爆笑が巻き起こったに違いありません。
もしも誰かと一緒に観るのなら、ユーモアのセンスのある 明るい人とに すべきでしょう。まずは 上記のwww.をクリックして、予告編を覗いてみて。
家族 恋愛 映画――人と映画への愛 溢れる、
イタリア映画傑作選!!
『Viva! イタリア』 Vol.2 (イタリア映画 × 3作)
6.27より公開中。www.pan-dora.co.jp
【INTRODUCTION】 前回(2013年)の大好評を受けて、第2回めの開催と相なった “イタリア映画傑作選”。イタリアの映画祭で人気を博した3作品の日本公開です。たゞ、試写会のスケジュールと僕の体調不良が重なってしまい、最初の1作しか観られなかったのが残念至極。
『フェデリコという不思議な存在』(93分)は、イタリアが世界に誇る映画監督:フェデリコ・フェリーニ(代表作は『道』『甘い生活』など)の若き日から晩年までの姿を描いたドキュメンタリータッチの劇映画。監督は、フェリーニと長く親しい関係にあった エットレ・スコーラ。
1939年、雑誌社に職を得たフェリーニが 先輩たちと共に編集会議に加わる場面や、『甘い生活』のロケーション場面(いずれも再現)を、僕は特に興味深く観ました。
また、創造と芸術に関するフェリーニとスコーラの言葉が、とても印象的でした。
「完全に自由な創造など、ありえないね」
「物を創る人間に完全な自由を与えたら、きっと何もしないだろう」
「完全な自由は 芸術家にとって、危険 極まりないモノだな」
『夫婦の危機』(112分)は、イタリア式・映画プロデューサーの受難狂走譚。監督は『ローマ法王の休日』(通信(105))の ナンニ・モレッティ。
『ただひとりの父親』(93分)は、生後10ヶ月の娘を育てるシングルファーザーの奮闘記。監督は、本作が日本公開第1作となる ルカ・ルチーニ。
イタリア映画ならではの楽しさを、皆さんも存分に味わってみてください。
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ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |