NYの街を往く白いリムジン、混濁する情報、忍び寄る暗殺者の影…
資本主義時代の終焉を黙示録的に描く、極上サスペンススリラー!
『コズモポリス』 (フランス・カナダ合作映画)
4.13 ロードショー。
詳しくは、cosmopolis.jpへ。
STORY 金融業界で大成功を収め、莫大な富を築き上げたエリック・パッカーは、28歳にして あらゆるものを手に入れた大富豪だ。白塗りのリムジンをオフィス代わりにしている彼は、この外界から完全に隔絶された空間で国際情勢を見渡し、思うがままにマネーを動かしている。あらゆる未来を予見できるエリックは、グローバル化が進んだ資本主義社会の万能の神たる存在なのだ。しかしエリックの内には、拭いようのない虚無感が宿っていた。そんなある日、2マイル先の理髪店をめざしてリムジンに乗った彼は、大統領のマンハッタン訪問に合わせて沸き起こったデモと大渋滞に巻き込まれる。投資の失敗による致命的な巨額損失、美しい妻との感情的な すれ違い、そして どこからともなく忍び寄ってくる殺しの影。一度狂った歯車を修復できないエリックは、為す術もなく破滅的な運命に囚われていくのだった…。(プレス資料より)
「コレは見逃したくない」と感じて、早めの試写に出向きました。その理由は、試写招待状のスタイリッシュなビジュアル(チラシA面と ほゞ同じ)、興味をそそるストーリー、ロバート・パティンソンの主演、という3ポイント。
全篇の大半がハイテク仕様のリムジンの中で進行します。リムジンは、無機質で虚無的で、まるで別世界の生き者のような主人公エリックのオフィスであり、生きる空間。ボディガードが運転するリムジンには、来客が代わる代わる乗り込んできます。部下A、部下B、年上の不倫相手、身体検査に訪れる医師、結婚したばかりの妻、倫理指導役(?)の女性、etc…。そのやり取りが延々と続くのですが、少しも退屈しなかったコトに驚かされました。上映時間110分の大半が、そんなシーンの連続だったというのに。
それだけを考えても、この映画は既成の映画ジャンルからハミ出していて、相当ユニークかつインタレスティング。かなり淡々としているのに衝撃的な印象さえ与えます。終盤に差しかかる辺りで予想もしなかった出来事が2つ3つ起こりますが、ラストは観客の想像に委ねるような形でエンドロールへと繋がっていきます。
主役を演ずるパティンソンは、一段大人になったという印象。2年程前の『リメンバー・ミー』では、日本で言えば“ジャニーズ出身”という雰囲気を感じさせる“少年と青年の峡間”にいるようなイメージでしたが、年令的に少し背伸びしたエリック役を、気負わずにクールに演じています。ショットによって、バーガンディー系のシャドウをアイリッドに薄くボカし入れているのが分かるところなども、僕にとっては興味深い点でした(それは、役の肌の透明感と美形振りを強調するための“素顔”としてのメークアップです)。
画面に登場する度に見取れたのは、エリックの妻役のサラ・ガドン。『危険なメソッド』でユングの妻を好演した女優ですが、それよりも一段若い感じの役を、今回も巧みに演じています。ひと頃の『ヴァンサンカン』のスーパー読者風…、No、それ以上にラグジュアリーな育ちやソーシャルレベルを感じさせるところが実にうまく、コレは相当の演技力がなければ出せない感覚でした。
快感があるようには思えなかった2つのSEXシーンと、なぜ頭にタオルを繰り返し被るのか分からないベノ・レヴィンの“意味あり気な”奇妙な動きは気に入りませんでしたが、この映画は観て正解。別世界or近未来を眺めるような、ある種の面白さがあったからです。
日々を懸命に生きる すべての人に、幸せあれ。
願いをこめて名匠ケン・ローチ監督が贈る、
笑顔と涙と喜びにあふれた、感動のエンディング!
『天使の分け前』 (イギリス・フランス・ベルギー・イタリア合作映画)
4.13 ロードショー。
詳しくは、tenshi-wakemae.jpへ。
STORY スコッチウイスキーの故郷スコットランド。育った環境のせいでケンカ沙汰の絶えない若き父親ロビーは、刑務所送りの代わりに社会奉仕活動を命じられる。そこで出会ったのが指導者でありウイスキー愛好家であるハリーと、3人の仲間たち。ハリーにウイスキーの奥深さを教ったロビーは、これまで眠っていた“テイスティング”の才能に目覚め始める。ある日、オークションに100万ポンド(約1億3,700万円)もする樽入りの超高級ウイスキーが出品されることを耳にしたロビーは、人生の大逆転を賭け、仲間たちと一世一代の大勝負に出る! (試写招待状より)
題名になっている“天使の分け前”とは、ウイスキーなどが樽の中で熟成されている間に、年2%ほど蒸発して失われていく分のコト。10年物、20年物と年数を重ねるごとにウイスキーは味わいを増し、それと共に“天使の分け前”も増えていく、のだとか…。「実際には多分違うだろうけれど、寓話的な可愛らしい映画であればいいな」と、期待感を抱きつつ観に行きました。
実際のところ、寓話的要素は想像以上に少なかったのですが、コレは過酷な現実を明るくユーモラスに描き出した可愛らしさのある小品でした。暗いor感傷的な気分にさせるコトなく、かと言って嘘っぽい印象を与えるコトもなく、多少なりとも知っている誰かの行動の ゆくえを、見守っているような感覚で観ていました。
敢えて言う必要はないとも思うのですが、奉仕活動現場の指導者である太ったオジサン(ハリー)が画面に現われたら、彼の性格や不良連中に対する“地”の接し方に注目していてください。
最終的には“天使の分け前”がどうなったかが判明し、観客全員に“しみじみとした笑顔”をプレゼントしてくれる…、コレは そんな映画です。上映時間は101分。
音楽史に名を残す“旧”スターたちが、ホームの存続をかけて奇跡を起こす――。
ようこそ、人生を奏でる<音楽の館>へ。
『カルテット!人生のオペラハウス』 (イギリス映画)
4.19 ロードショー。
詳しくは、quartet.gaga.ne.jpへ。
STORY 英国の美しい田園風景の中、引退した音楽家たちが暮らす<ビーチャム・ハウス>で、英国オペラ史に その名を残す4大“旧”スターが再会した。経営難に陥っていた<ビーチャム・ハウス>の面々は、ホームの存続をかけた起死回生のコンサートに、この4大スターによる伝説のカルテット(四重唱)復活を期待する。ところが、過去の古傷をひきずる4人の人間関係は壊れたまま。しかも、その中心となるプリマドンナは かつての栄光に縛られ、歌うことを封印。果たして史上最高齢のオペラコンサートは無事に幕を開けることができるのか――。 (プレス資料より)
ダスティン・ホフマンの記念すべき初監督作品で、コレは とてもとても気持ちのいい、愛情に満ちあふれた映画です。
まず一番先に言っておきたいのは、「オペラ」とか「“旧”スターたち」とか「ホーム」といったキーワードだけで敬遠しないでほしいというコト。コレは むしろ、子供のように素直な心と、取りあえず精一杯やってみようという前向きなハートを賛美した作品…、観客を心身共に若く新鮮に、ピュアにしてくれる作品です。
チラシの下方にラストシーンのスティルが使われているので、隠さなくても大丈夫だと思いますが、最終的にコンサートは無事に幕を開けるコトができます。But、そこに行き着くまでの紆余曲折が とてもいいのです。ハラハラしたり、あきれたり、「そうだそうだ!」とエールを送ったりの上映時間99分でした。
チラシ上方・左から二人めが第1主役、“プリマドンナ”のジーン(マギー・スミス)。かつて彼女は正直すぎるor勝手すぎる性格のために愛する新夫のレジー(一番左、トム・コートネイ)を深く傷つけ、潔癖すぎた性格のレジーはジーンを許せずに即離婚…、その後は絶縁状態が何十年も続いたままという間柄。そのジーンが もう一度 真の正直さを取り戻し、レジーは潔癖すぎた心を解くコトでハッピーエンドとなる…、というところが素晴らしく、僕は最高に満ちたりた気持ちで観終えるコトができました。しかも、二人の和解への扉を最初に開いてくれたのが“懐かしい香りのするハンカチ”だったなんて、かなり古風だけれどロマンティックでエレガント。
認知症が始まっているらしいシシー(右から二人め、ポーリーン・コリンズ)の生来の愛らしさ・天真爛漫さ、下品な行動と会話でレジーを不快にさせるウィルフ(右、ビリー・コノリー)の実は思いやり豊かな性格など、彼らの生身の体温に親しみを感じさせられたコトも幸せの一語に尽きます。
さらに もう一人 忘れ難いのは、今は演出家の立場にいるセドリック(演ずるのは、『英国王のスピーチ』で吃音矯正の先生役を好演したマイケル・ガンボン)。彼は おそらく昔からの習慣で、コティの『エアスパン』というフェースパウダーを鏡台の上に置いているし、目の下用のハイライターや頬紅を慣れた手つきで使ったり、マニキュアリストを自室に呼んで爪の手入れをさせたりもするという人物。それが数年後の自分自身(僕です)の姿を見るようで、とても面白かったです(笑)。
皆さんも、この映画の登場人物達の中に、自分との共通点を見い出してしまうのでは? しかも誰か一人にではなく、複数の人物に。
それはともかく、この映画には掛け値なしのプライド・ちょっとした勇気・明日への希望、その貴さ・美しさが煌めくように散りばめられています。これは とてもとても気持ちのいい映画です。皆さん、ぜひ観てください。
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 |