“失って はじめて気づくこと” それは、“泣いても笑っても取り返しがつかないもの”
『セレステ&ジェシー』 (アメリカ映画)
5.25 ロードショー。
詳しくは、celeste-and-jesse.comへ。
【ストーリー】 セレステとジェシーは学生時代に知り合って結婚。最高に仲のいいカップルだけど、会社を経営し充実した社会生活を送るセレステの一方、ジェシーは売れないアーティストなのにマイペースに過ごす日々。ある日、セレステの提案で「永遠に親友でいられるように」と、2人は30歳を機に離婚を決意するのだが、事態は思わぬ方向へ…。(試写招待状より)
主人公のセレステ(ラシダ・ジョーンズ、美人です)は、典型的な“アルファ女子(気が強く自信過剰的な女性)”とは一味違っていて、自身のキャリアに対して真剣かつ厳しいと同時に、人としての優しさと思慮深さを備えた大人の女性。しかし離婚を決めていたジェシー(アンディ・サムバーグ)から、「ヴェロニカと結婚するコトにした。僕、父親になるんだ」と聞かされたトタン、本人も驚く程、激しく動揺します。そして「私、猫オバサンみたいよね」と自認するところまで落ち込みながら、何とか立ち直ろうとする姿を痛ましくもユーモラスに描いた作品です。決してシリアスすぎない ひとつのエンターテインメントなのですが、共感したり身につまされたりする読者は少なくないだろうと感じました。この種のラブ・ストーリーによくある“お定まりのハッピーエンド物”とは異なり、本質的に真面目な意図で作られています。上映時間は92分。
宣伝用チラシには、自動写真ブースで ふざけて撮った連続写真が使われていますが、この映画の内容やトーンをズバリ表現しているモノではないコトを述べておきたいと思います。
P.S. この映画に強い共感or他人事ではないという想いを抱いた方は、1960年のアメリカ映画『草原の輝き』(監督はエリア・カザン、主演はナタリー・ウッドとウォーレン・ビーティ)をぜひ観てください。かなりシリアスな内容ですが、立ち直る力を与えてくれるor心が洗い清められる素晴らしい作品です。
激動の時代に抗い、運命を切り開こうとした実在のグランド・マスター達の、愛と宿命の物語。
『グランド・マスター』 (香港・中国・フランス合作映画)
5.31 ロードショー。
詳しくは、grandmaster.gaga.ne.jpへ。
【ストーリー】 戦争の足音が刻一刻と迫る1930~1940年代、中国。流派を極めた長は宗師<グランド・マスター>と呼ばれるが、北の八卦掌の宗師である宮宝森(ゴン・パオセン)は引退を決意し、その地位と南北統一の使命を最強の者に譲ろうとする。候補は形意拳の使い手である一番弟子の馬三(マーサン)と、南の詠春拳の宗師・葉問(イップ・マン)。パオセンの娘で奥義六十四手を唯一受け継ぐ宮若梅(ゴン・ルオメイ)も、父の反対を押して名乗りを上げる。だが野望に目の眩んだマーサンがパオセンを殺害、ルオメイはイップ・マンへの想いを胸の奥底に沈めて仇討ちを誓う。継承者争いと復讐劇、愛と憎しみが絡み合う壮絶な幕が切って落とされた。八極拳の宗師で一線天(カミソリ)と呼ばれる謎の男も、不穏な動きを見せている。果たして力と技と心で闘いを制し、真のグランド・マスターとなるのは――?(プレス資料より。一部省略)
上映時間は123分。ストーリーの面白さは勿論ですが、全篇にわたり、ひとつひとつのカットが非常に丁寧に撮られていて、それをキメの細かい編集が最大限に生かし切っている職人芸的な作品です。CG技術は最小限に留めているようで、特に雨のしずくや水しぶきの映像美には、目を見張らせるモノがありました。
僕が試写に出向いた第一の理由は、チャン・ツィイーが主演しているというコトでした。余談ながら、もう10年も昔…、僕は2年間に計3日間、早朝~夜遅くまで つきっきりで彼女のメークを担当した経験があり、彼女の顔・肌・性格が非常に好きなのです。
ルオメイ役の彼女は、相変わらず少女のような清潔な美しさで観客を魅了します。しかし、少々気になったのは幾つかのショットで、彼女の上まぶたのハリが弱まってきていると感じさせられたコトでした。彼女には老けてほしくないと強く願っているがために、そんなところへ目が行ってしまったのだとは思いますが…。
彼女のシーンで特に見応えがあったのは、イップ・マン(トニー・レオン)との競技の場面(ストイックな恋の要素が隠されています)、マーサンとの決闘の場面(停車中の汽車が走り出し、スピードを上げて行く、そのすぐ横でのスリリングなアクション・シーン)、カミソリの危機を咄嗟の機知で救う古典的とも言える場面、老いたルオメイが長いガラスのパイプで阿片を吸う絵のような場面、等々。
もうひとつ、とても印象的だったのは、終章で十数年振りに再会したイップ・マンに「悔いのない人生なんて、味気ないわ」と言う彼女のセリフ。そのセリフに続いて、「あなたを愛していました」と、胸に秘めていた想いを淡々と告白するのです。
トニー・レオンも適役を好演(おそらく、チャン・ツィイー以上に)。卓越した技の持ち主としての強さと、人間的な柔らかさとのギャップor一体感が、独得の味を醸し出していました。
最後に敢えて不満を述べさせていただくと、カミソリの登場が唐突すぎて、なおかつ最後まで存在感が稀薄なままになっていたコト。さらにエンドロールに向けて蛇足感があったコト。思い切ってハサミを入れれば、作品全体が さらに引き締まったはずという気がしています。
18歳になった少女に届いたのは、秘密の扉を開く鍵――。
豪華キャストで描く、揺れるイノセンスの衝撃の結末。
『イノセント・ガーデン』 (アメリカ映画)
5.31 ロードショー。
詳しくは、foxmovies.jpへ。
【ストーリー】 外部と遮断された大きな屋敷で暮らし、繊細で研ぎ澄まされた感覚を持つインディア・ストーカーは、誕生日に唯一の理解者だった父を交通事故で亡くしてしまう。母親と参列した父の葬儀に、長年行方不明になっていた叔父のチャーリーが姿を現し、一緒に暮らすことになるが、彼が来てからインディアの周りで次々と奇妙な事件が起こり始める…。(試写招待状より。一部省略)
高級なホラー映画風でもある、ミステリアスでダークな、ひとりの少女の成長物語。上映時間は99分。
興味をそそる内容ですが、正直に言って練り不足の感あり。サイコロジックな要素を備えていながら、それが うまく表現されているとは言い難く、僕は少々もどかしさを感じました。
But、相当キレイな場面が数多くあり、主要人物達の瞳の虹彩を鮮明に捉えたクロースアップ(特殊な技術or処理が施されているのかも)なども、観客の目を惹きつけます。
インディア役のミア・ワシコウスカは多彩な役柄に挑戦する実力派の若手ですが、彼女のキャリアにとって本作がプラスとなるか否かは50/50。
母親役のニコール・キッドマンは美しいヘア&メーク&衣装で登場。しかし役そのものの性格に厚みが乏しく、『ラビット・ホール』に次ぐ作品としては弱い印象。近く公開されるはずの最新作、コリン・ファースと共演の『The Railway Man』と、グレイス・ケリーに扮する『Grace of Monaco』に期待します。
ビューティ エキスパート 大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |