アメリカが最も危険だった禁酒法時代。
欲望が支配する地“バージニア”に、不死身と呼ばれた兄弟がいた。
『欲望のバージニア』 (アメリカ映画、116分)
6.29 ロードショー。
詳しくは、yokubou.gaga.ne.jpへ。
【STORY】 「絶対に死なない」という伝説を打ち立てたボンデュラント兄弟。危険な密造酒ビジネスで名を馳せた実在の男たちだ。ある日バージニアに新しい特別取締役官レイクスが着任、高額の賄賂を要求する。まわりが次々と従うなか、一切拒絶する兄弟。その日を境に腐敗した権力からの想像を絶する脅迫が次々と突き付けられる。その魔の手は守るべき大切な存在にまで及び――。立ちあがった兄弟の激しくも美しい復讐とは――?(試写招待状より)
舞台は禁酒法時代後期、1931年のバージニアの田舎町で、ジェシカ・チャステインが“流れ者の女”を演じている…。それが本作を観たいと僕に思わせたポイントです。
実話の映画化ですが、いくら あの時代の あの場所でも、あそこまで腐敗しきった男が役人として まかり通るとは思えず、僕は少々フィクションの匂いを感じてしまい…。にも拘わらず、三兄弟の不屈の精神と結束の強さを軸とした展開には、相当興味を そそられました。
お目当てのジェシカ・チャステインは、抜けるような白い肌に真紅の口紅とエナメル、ブロンドに近いレッドヘアで登場。シカゴ辺りのナイトクラブで羽根飾りをつけて踊っていた元ショーガールで、どうやら何者かに汚された過去から逃げて来たらしいという役どころ。その彼女が、トム・ハーディ演ずる三兄弟の次男と“人生で初めての幸せ”をつかもうとする姿…、特に意を決して、「ずっと私を見てるだけなの?」と彼に問いかける場面辺りが とても良かったです。
男優陣で印象的だったのは、三兄弟の末っ子ジャック役のシャイア・ラブーフ(一人前の男に成長していく過程を好演)、ジャックの幼な友達で脚が不自由なクリケット役のデイン・デハーン、そして異様にナルシスティックで気色の悪いレイクス役のガイ・ピアース。
本作には悪徳に対する恐怖と、それを克服しようとする意志の力が描かれていますが、後者をもっと強く打ち出したならば、さらに充実した作品になったのでは?とも感じました。
ひとつ非常に良かったのは、この映画にはスマートな“省略法”が用いられている部分があったコト。「何でも映し出せばいいってワケではない」という監督の、美意識のようなモノの存在を僕は感じました。暗示に対する観客(一般の映画ファン)の想像力というモノを、この監督(ジョン・ヒルコート)は信じているのだと思います。
ゆるやかな時間が流れる異国の海辺の街で、
繰り返されるアンヌの恋のヴァカンス。
旅先でのちょっとしたハプニングに心ときめく。
『3人のアンヌ』 (韓国映画、89分)
6.15 ロードショー。
詳しくは、www.bitters.co.jp/3anne/へ。
【STORY】 映画学校の学生ウォンジュは、母親と一緒に借金取りから逃げて 海辺の街へやって来た。そこで彼女は気を紛らわすために フランス人女性の“アンヌ”を主人公にした映画の脚本を書きはじめる。アンヌが、海辺の街モハンにやってきて、そこでライフガードと出会う ひと夏のヴァカンスのお話を。 (プレス資料より)
オムニバスの変形のようなスタイルで物語られる、奇妙で面白い映画です。
主人公の“アンヌ”が三人いて、青いシャツのアンヌは有名な映画監督、赤いワンピースのアンヌは浮気中の人妻、緑のワンピースのアンヌは離婚したばかりの女性。その三人の“アンヌ”を同じ女優が演じていて、三人の話は別個のモノでありながら反復・連鎖・呼応を繰り返すという独特の構成。“類似していながら成り行きの異なる夢”を見ているような感覚が楽しく、1920年代末期のアヴァンギャルド映画&’50年代後期のヌーヴェルヴァーグ映画のタッチも見え隠れする趣き・味わいが僕は好き。
監督のホン・サンスは、フランスで特に人気が高いと聞いていますが、大らかでいて繊細、綿密でいてノンシャラン風でもあり、本国では「外人さんみたいな性格の人」などと言われていそうな感じ…。無国籍的というか多国籍的というか、そんな彼自身の感覚を楽しみながら映画を撮っているように僕には感じられました。
三人の“アンヌ”を演じているのはイザベル・ユペール。カンヌやヴェネチアの国際映画祭etcで数々の女優賞に輝いているフランスの名女優のひとり(最近公開された『愛、アムール』にも、老夫婦の娘の役で出演していました)。「1953年生まれ」というプロフィールの記載が間違いではないかと思える程、若々しくスリムで美しい。それが若作り風では全くなく、知的な大人の女性の雰囲気を漂わせてのコトだから立派です。
この映画は、特に感性の高い読者の皆様にオススメ。
P.S. 演出法として、ホンのちょっとのズームを意識的に使用しているコトなども、妙に印象的でした。
真剣だからこそ滑稽で、無様だからこそ心に刺さる、“35歳の童貞男”の恋の行方は――。
『箱入り息子の恋』 (日本映画、117分)
6.08 ロードショー。
詳しくは、www.hakoiri-movie.comへ。
【STORY】 市役所に勤める天雫健太郎は、彼女いない歴35年=年齢の独身男。内気で愛想がなく、自宅と職場をただ行き来する日々を送っている。唯一の友だちはペットのカエルだけ。見かねた両親は親同士が婚活する“代理見合い”を通じて、裕福な今井夫妻の美しい ひとり娘、奈穂子と正式にお見合いするチャンスを掴んでくる。彼女の目が全く見えないとは知らずに…。奈穂子と知り合って、はじめての恋をする健太郎。「好き」という感情を一気に爆発させる彼だったが、ふたりの行く手には思わぬ障害が待ち構えていて――。 (プレス資料より)
チラシにも使われているスティルの健太郎(星野源)の顔が「ケロヨンみたいで可愛い」と感じて観に行ったら、彼の唯一の友達がペットのカエルだったコトにビックリ。題名から「お金持ちか名門の家の息子の話」と想っていたら、自分のカラに閉じこもっている「箱入り」の青年の話でした。
映画全体がユーモアとシリアスのミックスジュースのようで、押しつけがましさを排除しているかのようなセンスが独特な感じ。奈穂子(夏帆)の父親(大杉漣)の分別不足の言動にはアキレッ放しでしたが、もしかしたら、それも意図したコミック的な演出だったのかもと、見終えてから気づいたり(?)もして。
人生に対する情熱のかけらもなかった無機質な健太郎の“初恋”による心の変化。そして付き合い始めた健太郎と奈穂子の ぎこちなくも真剣な態度のいじらしさ。一番良かったのは…、この映画には牛丼の吉野家が確か三度出てきましたが、その三度めのシーン(スティルは二度めのシーン。念のため)は、テンポもタイミングも心理描写も実に素晴らしかったと思います(詳しくは書きません。コレは観た人だけが感じるコトのできる名場面です)。
もう一ヶ所、奈穂子の母親役の黒木瞳が、夫に平手打ちを食わす場面。「私、そんなにバカじゃありませんよ!」と叫んだと記憶していますが、「そうじゃないかなぁ」と想っていたコトを黒木瞳は とっくに見破っていたというワケで、「あっぱれ!よく言った!よく ひっぱたいた!」と胸のすく思いがしました。というコトは、僕は いつの間にか、彼女の味方になっていたに違いないのです。
脇役ながら、穂のか演ずる健太郎の同僚(SEXを一番大切なコトと考えているらしい女性)の存在感もなかなか良く、僕は彼女のようなタイプの女性を見る目が、彼女のおかげで変わったかもしれません。
だからという意味ではありませんが、コレは僕に新しい感覚を もたらしてくれた作品という気がしています。
ビューティ エキスパート 大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |