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Channel: 大高 博幸 –美的.com
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大高博幸の美的.com通信(163)『クロワッサンで朝食を』『31年目の夫婦げんか』 試写室便り No.45

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© TS Productions – Amrion Oϋ – La Parti Production – 2012

© TS Productions – Amrion Oϋ – La Parti Production – 2012

はじめてパリにやってきた家政婦と、裕福だが孤独な老婦人。
住む世界の違う2人が出逢い、再び人生が微笑み始める――。
クロワッサンで朝食を』  (フランス・エストニア・ベルギー合作映画、95分)
7.20 ロードショー。
詳しくは、cetera.co.jp/croissant/へ。

【STORY】 エストニアで母を看取ったばかりのアンヌに、パリでの家政婦の仕事が舞い込む。悲しみを振り切るように 憧れのパリへ旅立つアンヌ。しかし 彼女を待ち受けていたのは、高級アパルトマンに独りで暮らす 毒舌で気難しい老婦人フリーダだった。フリーダはクロワッサンの買い方も知らないアンヌを 冷たく追い返そうとする。アンヌを雇ったのは 近くでカフェを経営するステファンで、フリーダは家政婦など求めてはいなかったのだ。だが 遠い昔 エストニアから出てきたフリーダは アンヌに かつての自分を重ね、少しずつ心を開いていく。やがてアンヌは フリーダの孤独な生活の秘密を知るのだが――。(プレス資料より。一部省略)

原題は『パリのエストニア女性』(日本公開題名は、いいようでいてクエスチョンマーク)。エストニアのイルマル・ラーグ監督(現在45歳)が母親にまつわる想い出を映画化した長編第一作で、ゆったりとしたリズムを通して簡潔に物語られる小品です。
平たく言うと、住む世界も生き方も性格も年齢も全てを異にする ふたりの女性(出身国だけは同じ)が、最終的に微笑を交わしあうという内容。しかし、よくある“型に はまった甘ったるい映画”では ありませんでした。ムダや わざとらしさのない演出と演技によって、普遍的な悲しみや孤独感、誰にも必ず訪れる人生の分岐点、新たな生き方を選択する過程等が、静かなタッチで描き出されています。
印象的だったのは、雪深いエストニアの片田舎と絵葉書風ではないパリの情景、そして何よりも登場人物たちの鮮明な性格描写。
フリーダ(ジャンヌ・モロー)は若い頃にパリにやって来て、エストニアの政治的な理由等で故国に戻るコトもなく、パリ16区の豪奢なアパルトマンに住んでいる85歳くらいの女性。夫には先立たれ、子供はなく、非常に頑固で我がまま、何に対しても難癖をつけたがる専制君主型の性格で、女としての情熱は捨てずにいるものの、生きる歓びとは既に ほとんど無縁の日々を送っています。
「フランス語が話せるエストニア人」という条件を満たしていたがために 家政婦として雇われて来たアンヌ(ライネ・マギ)は、地味で献身的で物静かな、しかし芯は強い50代中端の女性。
そして、ふたりの間を行ったり来たりしなければならなくなるステファン(パトリック・ピノー)は、フリーダの かつての若いツバメ…。彼女の援助でカフェを持たせてもらったという過去に縛られているようなところがある、しかし相当誠実な中年男(このステファンの演出が非常に うまく、映画全体に厚みと変化を与えています。パトリック・ピノーも絶賛に価する好演で、特に目の表情が実に素晴らしい)。
フリーダの毒舌振りは、晩年期のココ・シャネルに匹敵する感がありましたが、それはベツとして、チャーミングだった彼女の台詞は次のふたつ。
「(舗道で、アンヌに向かって) 最後に男と寝たのは いつなの?(「尊敬できる男でなければ私は無理なんです」と答えるアンヌに) んまぁ、その男がハンサムで知的だったとしても? そりゃあ勿体ない。自分の幸せのために、考えを変えるべきよ。」
「(カフェで、ステファンに向かって) 女は変わってしまうのに、男が変わらないのは なぜ?(「女は気まぐれで、男は忠実だからでは?」と答えたステファンに) ふーん、そうなの?」

特に観てほしいのは30代後半~50代の大人の女性で、感じるコトがいろいろあるはず。また年齢に関係なく、「ココ・シャネルが大好き」という方々にもオススメします。フリーダは家の中でもシャネルのオートクチュールを当たり前のように着ているし、居間にはシャネルのアパルトマンのようにコロマンデル風の屏風が置かれています。それだけでなく、アンヌの感覚は前述のように、ココ・シャネルのそれと根本的に共通点が多いからです。
僕は、この監督の名前を憶えておくコトにしました。地味で小粒な優秀作を、コツコツと本気で作り続けて行く人だろうと感じたからです。

 

© 2012 GHS PRODUCTIONS, LLC.  All Rights Reserved.

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これからも、あなたと笑っていたいから――。
人生を謳歌する秘訣がつまった、ユーモアあふれる感動作!
31年目の夫婦げんか』  (アメリカ映画、100分)
7.26 ロードショー。
詳しくは、31years.gaga.ne.jpへ。

【STORY】 深呼吸をして、夫のアーノルドの寝室を“訪ねる”ケイ。覚悟を決めて今夜は一緒に寝たいと伝えるが、「今日は気分が悪い」と拒絶されてしまう。
結婚31年目、毎日同じ朝食を食べ、同じ時間に帰宅し、同じ会話を交わし、同じゴルフ番組を見るアーノルド。子供たちは独立し、2人には もはや けんかの種さえ見つからない。
夫婦の関係を見直したい、そう思い立ったケイは結婚生活のカウンセリング本を購入。夢中で読み終えると、著者のバーナード・フェルド医師のホームページにアクセスする。(プレス資料より)

切れのいい台詞と場面の運び。全体的にテンポが良くて、観る者を惹きつける大人のコメディ。おそらくアメリカの映画館では、爆笑とクスクス笑いが何回も起きただろうと想像します。とは言え、この映画が描いているのは、「愛情を失うのは どれだけ簡単で、それを取り戻すのは どれだけ難しいかという普遍的なテーマ」(製作総指揮者の談話)。
4年程前からセックスレスになっている一組の夫婦が、1週間4,000ドルの“カップル集中カウンセリング”を受け、連日 宿題に挑戦していく姿(と言っても、夫はシブシブ付き合っている)に、観客は「いったい、どこまで やるの?」と興味津々。挑戦がモタついてしまうと同時に映画そのものも少しモタつく感はあるのですが、その辺りまでくると、誰もが夫婦の応援隊のような気持ちになってしまいます。
メリル・ストリープ演ずるケイには、とても可愛らしいところがありました。たとえば、まず、深呼吸をして夫の寝室を“訪れる”ファーストシーン。「どうした? エアコンが壊れでもしたのか?」と聞く夫に、「私、思ったんだけど、ここで寝る。んー、あのね、したいの」と答えるのですが、骨太で固太り風の彼女が意外なほど愛らしく感じられるのです。また、後半、医師からススメられて『ゲイに学ぶ HOW TO SEX』とかいう本を買いに行く場面での、店員との やり取りの愛らしさ。やはり彼女は抜群の演技力の持ち主。それに台詞が とてもとても聞き取りやすい。
トミー・リー・ジョーンズ演ずるアーノルドは、頑固でカタブツで口が悪く、アニメに出てくる怪獣のようにも見えたりする男。しかし、実際はシャイで優しく誠実な性格で、ラストに向けて行動パターンが激変して行く様子が とても良かったです。

脚本、演出、撮影、演技etc、すべてのバランスが取れた好編で、一見の価値あり。お子様はベツとして、年齢・性別・立場に関係なくオススメします。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

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