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Channel: 大高 博幸 –美的.com
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大高博幸の美的.com通信(211) 『あなたを抱きしめる日まで』 『ワン チャンス』 『ランナウェイ・ブルース』 試写室便り Vol.64

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© 2013 PHILOMENA LEE LIMITED, PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED, BRITISH FILM INSTITUTE AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED

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生き別れた息子を捜し続ける主婦フィロミナ。
50年の時を経て、彼女が見つけた真実とは――
あなたを抱きしめる日まで』 (イギリス映画/98分)
3.15 公開。http://mother-son.jp/

【STORY】  その日、フィロミナは、50年間かくし続けてきた秘密を娘のジェーンに打ち明けた。
1952年、アイルランド。10代で未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、修道院に入れられる。そこでは同じ境遇の少女たちが、保護と引き換えに厳しい労働を課されていた。フィロミナは男の子を出産、アンソニーと名付けるが、面会は1日1時間しか許されない。そして3歳になったとき、アンソニーは養子に出されてしまう。
以来わが子のことを一瞬たりとも忘れたことのない母の想いを受け止めたジェーンは、BBCをクビになった元ジャーナリストのマーティンに話を持ちかける。愛する息子に ひと目会いたいフィロミナと、その記事に再起をかけたマーティン、全く別の世界に住む二人の旅が始まる――。(試写招待状より)

アイルランド人の主婦:フィロミナ・リーさんの実話(2009年に英国で出版された)を、スティーヴン・フリアーズが監督した作品。わずかな情報だけを頼りに、初めて飛行機に乗ってアメリカへ渡った彼女が、思いもよらない真実を見い出すまでの物語。

非常に驚かされ、それ以上に腹立たしい気持ちにさせられたのは、修道院が主に裕福なアメリカ人のカトリック教徒に、幼い子供達を養子として、ひとりにつき1000ポンドで斡旋していたという話。しかも証拠を残さないために、記録を焼却していたというのです。それ以上の話には ここでは触れずにおきますが、心底激怒したマーティンが ラスト近くの場面で、シスター・ヒルデガードと彼女の部下達に 断固として言い放った言葉を、僕は忘れられません。

ジュディ・デンチ演ずるフィロミナは、非道な扱いを受けてきたにも拘らず“善良で信仰心が篤い田舎の主婦”で、人のいいオバさん的魅力の持ち主。スティーヴ・クーガン演ずるマーティンは“皮肉屋で信仰心がない元エリート記者”で、通俗的な話や感覚を蔑視するタイプのインテリ男。このふたりの やり取りに独得のユーモアがあり、重く暗くなりがちなテーマに明るさを添えています。ヴェネチア国際映画祭(脚本賞を受賞)やトロント国際映画祭(観客賞次点)では、客席から笑いが絶えなかったコトでも話題を集めたそう。僕が見た六本木の試写室でも、遠慮がちながら笑声が度々沸き上がっていました。

ジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンは共に素晴らしい演技。デンチは今までになく愛らしく、クーガンはフィロミナ以上に本気になって のめり込んでいくプロセスをデリケートに表現、観客に強い共感を与えます。若き日のフィロミナ役のソフィー・ケネディ・クラークも、自然な演技で とても良かったです。

ところで肝心のアンソニーの その後は? 誰もが一番知りたいのは そこですよね。悲しいけれど救いのある真実…。それを あなた自身の眼で、スクリーンで見届けてください。

 

(C)2013 ONE CHANCE, LLC.  All Rights Reserved.

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妻の愛と夢だけを味方に、ケータイ販売員から世界的オペラ歌手へと駆け上がった、ポール・ポッツ 世紀の逆転劇!
ワン チャンス』 (イギリス映画/104分)
3.21 公開。onechance.gaga.ne.jp

【STORY】  その男が現れ、「オペラを歌います」とあいさつした時、客席からは失笑がもれ、審査員たちは困惑した。2007年、英国の大人気オーディション番組「プリテンズ・ゴッド・タレント」の会場でのこと。容姿もパッとしない地味な身なりのケータイ販売員が、華麗なるオペラ「誰も寝てはならぬ」を歌うというのだ。だが、その歌声が天に放たれた瞬間、会場は静まり返り、そしてすぐに どよめきに変わり、歓声と拍手が轟いた――。そんな一大センセーションを巻き起こした英国のオペラ歌手 ポール・ポッツの半生と、彼を支えた愛する妻や友達との物語。(試写招待状より。一部省略)

大いに笑ってホロッと泣ける、実話に基づくヒューマンドラマ。
子供の頃から典型的なイジメられっ子。大人になっても相変わらずで、ケータイ電話ショップでアルバイトをしていたポール(ジェームズ・コーデン。歌唱はポール・ポッツ本人)が、幾つもの挫折を乗り越えて 世界的なオペラ歌手になるまでを描いています。

シャイで過剰なまでに謙虚で、しかも打たれ弱い彼が、なぜオペラ歌手として成功できたのか…。映画を見れば分かるコトですが、その理由は、
① ポールは、素晴らしい声質と声量に恵まれていた(たゞし、愛を歌う表現力は不足していたらしい)。
② ポールには、イジメられたり全否定されたりして落ち込んでも、好きな歌を あきらめない意志の強さが、どうにか あった。
③ ポールの人柄ゆえの話ですが、彼を支え、背中を押してくれる恋人(後の妻)や友達がいた。
④ 最終的にポールは、プロとして活躍するために、歯並びの目立つ欠点を矯正した。

この4つが全て揃って現在のポール・ポッツがあるワケですが、あまりにもヒドイと思ったのは、ヴェニスのオペラ学校で理事を務めるパヴァロッティという「神様のような」人物。彼の面前でテストを受けるコトになったポールは、極度の緊張から声が上ずり、パヴァロッティから歌を途中で制止され、次のように宣言されます。
「オペラ歌手は観客の心を盗まねばならない。泥棒の図太さが必要なのだ。それがない君はオペラ歌手にはなれないだろう。現時点でも、そして将来も。」
「現時点では」と言うなら まだ分かりますが、「現時点でも、そして将来も」とは、なんたるゴーマンな発言! ポールが一流のオペラ歌手となった時、この男は その一件を どう想い出していたのか…。大人になっても相変わらずイジメのリーダーをしているマシューという男も“バカ者”ですが、パヴァロッティは“バカ者”以下の“ク○ッ○レ”です。
ポールを全否定したと言っても過言ではない男と、それでも立ち直ったポール…。このふたりの“人間としての資質”を 比較して考えてみるコトも大切ではないかと、僕は感じました。ポール・ポッツは、そんなコトなど決して望んではいないでしょうが。

最後に、本作を観たポール・ポッツ本人のメッセージを、プレスブックから引用させていたゞきます。
「私がいつも信じてきたのは、毎日その日を生きていかなければならない ということです。困難な時に、私はそうやって生きてきました。あの番組に出た後も同じです。それが、すべての人への教訓だと思います。すべてのことが自動的に与えられるのではなく、毎日ひとつずつ自分から取り組むのです。私の人生についての映画を観てもらえることに、驚きと喜びを感じています。」

 

©2012 Motel Life LLC

©2012 Motel Life LLC

ローマ国際映画祭で観客から最も称賛された愛と絆の物語。
ランナウェイ・ブルース』 (アメリカ映画/85分)
3.15 公開。www.RUNAWAY-BLUES.JP

【STORY】  フランクとジェリー・リーはネバダ州リノに暮らす固い絆で結ばれた兄弟。弟のフランク(エミール・ハーシュ)が紡ぎ出す痛快な冒険譚に、兄のジェリー・リー(スティーヴン・ドーフ)がイラストを描き起こし、日々のつらさを笑い飛ばして生きてきた。子どもの時に負った大怪我のせいで、何をやっても うまくいかない兄を、弟は どうしても見捨てることができない。兄もまた そんな弟の重荷になるまいとしながらも、結局 頼れるのは弟だけだった。不幸な事故が二人を離れがたい間柄にしていた。
ある日 ジェリー・リーが交通事故を起こし、二人は、フランクの かつての恋人 アニー(ダコタ・ファニング)が住むエルコの町へ逃れる。互いに愛し合いながらも、ある出来事をきっかけに、別れてしまったフランクとアニー。本当はアニーのことを思い続けるフランクだったが、自分だけが幸せになることに後ろめたさを感じてもいた。そんなフランクにジェリー・リーは「一歩前に歩み出せ!」と弟の背中を押して、アニーとの幸せを願うのだった。
フランクはアニーの愛を取り戻し、最愛の兄を守ることができるのか…? (プレスブックより)

試写招待状の写真(チラシと同じ)の雰囲気から、「凶暴そうな暴走族か何かのブルーな物語?」と穿った想像をしていたのですが、それは完全な間違いでした。コレは兄弟の愛と絆の深さを描いた 今までになかったような作品で、たとえば僕は『リバー・ランズ・スルー・イット』を観た時以上の、何倍も強い感動を覚えました。

父親が家族を残して去った後、母親は病気(おそらくはガン)で亡くなる…。幼くして孤児となった兄弟は、「大きくなるまでは離れずに、何があっても一緒にいなさい」という母の遺言を守るかのように、以来ずっと助け合って生きて来た…。成人後も定住の場を持てないまゝ、今はモーテルで暮らしている…。しかし、ふたりの生活には荒んだ感じが少しもない。それは多分、互いを心から思いやる気持ちが、わびしく虚しいはずの日々を明るく温かいモノにしているから…。

本作は、少年時代の回想場面と、空想の冒険譚の場面とを随所に挿入する形で構成されています(後者は、ラフな線描による魅力的なアニメーションで表現)。
登場人物はミニマムで、省略法が かなり巧みに使われており、上映時間も1時間25分と 相当シンプル。そのためもあって、ふたりの置かれた状況と独得とも言える兄弟の感情の機微が、鮮明に浮かび上がってくるのです。

特に重要or極立つシーンが、ラスト近くにありました。それはエルコという町のモーテルで ふたりが会話する場面(兄はベッドに横たわり、弟はベッドサイドの椅子に座っているという位置関係)。動きが ほとんどなく、台詞以外は無音という演出で、ふたりの台詞とデリケートな表情のみで示されるのですが、この場面は観る者の全神経を集中させるに十分でした。これに続くエンディングに至る流れも見事で、詳しくは書けませんが、哀切でいて温かい気持ちにさせてくれるところが実に素晴らしかったです。
観終えて試写室を出た後、僕は昔から知っている何組かの兄弟・姉妹、そして自分と妹のコトを想い出していました。想い出すうちに、初めて気づかされたコトもありました。この映画は、しばらくしたら、また改めて観たいと思っています。

監督はアランとガブリエルのポルスキー兄弟で、コレが監督デビュー作。演技や撮影は勿論、全てにキメの細かい丁寧な演出を施しています。
出演者は主要な三人を含めて全員が好演。フランクを励まし続ける中古車店オーナーのハーリー(クリス・クリストファーソン。一番上のスティルの右側にいるオジサン)の言葉にも真実があり、フランクが飼うコトになるシェパードの雑種のような黒い犬までが、この映画に完璧にフィットしていました。

目立ちにくいインディペンデント系の小品ですが、この映画は価値ある一作。ほんの少しでも気になった方は、ぜひとも観てください。チラシや僕の拙文では決して伝えきれないモノを、スクリーンから直接 感じ取っていたゞければ嬉しいです。

P.S.  次回の試写室便りは、4月9日頃に配信の予定です。では!

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

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