俺んちは父と母との6人家族――
6人で計算は合ってる。
(注:俺には父親が4人いる)
――でも この事態は計算外!
伊坂流サスペンスコメディの決定版、ついに映画化!
『オー!ファーザー』 (日本映画/103分)
5.24 公開。www.oh-father.com
【STORY】 名前は由紀夫。どこにでもいるフツーの高校生だと自分では思ってる。オヤジが4人いることを除けば、ね。俺が生まれる前、母は2股どころか4股をかけていて、俺を身ごもったとき 相手の男たち4人が“別れるくらいなら!”と一斉にオヤジに名乗りを上げたモンだから、複雑な家庭環境ができあがったというワケ。オヤジが4人もいるんだから ウザいのも他の家の4倍だけれど、まあ、それなりに楽しくやっていたと思う。あの事件が起こるまでは――。
発端は サラリーマン風の男の鞄が すり替えられるのを目撃したことだった。何者かに監視され、荒らされる我が家、仲の良かった同級生の不登校、町のフィクサーがハマったらしい詐欺、不可解な心中事件、熾烈化する知事選挙…… すべての点が俺の頭の中で つながった気がしたんで、思い切って行動したら 大変なことになってしまった。俺、ここから生きて帰れるのかな? オヤジたちのことばかり思い出しちゃうのは何故なんだろう? なんでもいい、とにかく助けてくれ!! (宣伝用チラシより。一部省略)
50万部を超える大ベストセラーとなった伊坂幸太郎の人気小説の映画化で、スリルとユーモアと感動が溶け合ったエンターテインメント・ムービー。由紀夫役に岡田将生。4人の父親役には 佐野史郎、河原雅彦、宮川大輔、村上淳。由紀夫のガールフレンド的クラスメイトに忽那汐里。そして一見温厚だが棲むとコワい町のフィクサーに柄本明というキャスティング。監督・脚本は、なんと28歳の藤井道人。製作は吉本興業株式会社。
ひと言で、これは面白くて可愛い感じのする映画です。4人のオヤジの存在にも謎の拉致事件にも理屈っぽさがなく、マンガチックな上にファンタジックなニュアンスもあって、軽い気持ちで楽しめました。コワいはずの場面や人物にもユーモラスな味が潜んでいて、「そうするほうが楽しいやろ」とかいう勲オヤジ(宮川大輔)の台詞が、本作のコンセプトを代弁している感じです。
特に夢中で観てしまったのは、ラスト近くのクライマックス的な場面…、テレビの生放送クイズ番組・手旗信号・ケイタイ電話を巧みに使っての由紀夫救出作戦で、まさかの展開がアキレるほどユカイ。
それでも なお、最も印象に残ったのは、個性がバラバラでいて完璧にイキの合う4人のオヤジ達と由紀夫との信頼関係。“ほのぼの”とは またベツの(or“新種の ほのぼの”なのかも)、あったかい雰囲気が よく出ていて、とても心地良かったです。
主役の岡田将生は 24歳になったというのに高校生役がピッタリで、相変わらずハンサムこの上なし。場面やスティル写真によって右目のまぶたが重く見えるのが少々気になりましたが(寝不足なのかな? 心配です)、ポロッと涙を1粒こぼすビッグクロースアップでも、まつ毛の1本1本、毛穴のひとつひとつまでが清潔でキレイでした。
プレスブックを隈なく見ても 顔と名前が不明なのですが、拉致犯人のひとりとして登場する中年の女優さんの、リアルでいてトボケた感じの演技…、コレが真実 絶妙でした。吉本系の女優さんなのでしょうか…、お名前、今度 調べておきます。
ン? 由紀夫のマザー役は誰かって? ムムム…、それは 観てのお楽しみ というコトに!
愛する家族と仲間のために、自分が自分であるために、おじさんたちは ロッテルダム・マラソンのゴールを目指す!
走る人にも 走らない人にも勇気をくれる、涙と笑いの人生賛歌!
『人生はマラソンだ!』 (オランダ映画/107分)
6.● 公開。www.zaziefilms.com/marathon
【STORY】 ロッテルダムで 自動車修理工場を営むギーア。従業員は、ニコ、レオ、キースの中年3人組と、移民の若者 ユース。男たちは昼からビール片手にカードゲームに興じ、マジメに働いているのはユースぐらいだ。そんな ある日、ニコが税金の督促状の束を発見。ギーアは皆に経営不振を隠していたのだ。滞納した税金を支払うために、ギーアたちは スポンサーを口説き落として 一か八かの賭けに出る。それは ロッテルダム・マラソンに出場し、「全員完走出来たら借金を肩代わりしてもらう。完走出来なきゃ工場を譲る」というもの。元マラソン選手のユースのコーチの下、スポーツとは全く無縁だった4人は、マラソン完走に向け、練習を開始したのだが…。
はたして4人は フィニッシュラインに辿り着くことが出来るのか? スタートの号砲は鳴った! (プレスブックより。一部省略)
「男臭い映画だったら、『美的.com通信』での紹介は難しいかも」と心配しながら観たのですが、結果的に 「若い女性達にも意外に好かれそう!」と感じました。
単純ではない、悲劇の要素を含んだ 愛すべきコメディドラマで、男臭い匂いや汗の匂いは してきません。あなたが知っている 人のいいオジさんや、可愛い弟の何十年後かを見るような、優しい気持ちで観てしまうであろう内容です。予備知識を余り持たないほうが楽しめるし、のめり込んでしまうはずなので 詳しくは書かずにおきますが、登場人物全員のキャラクターが欠点を含めて魅力的で、アカの他人とは思えなくなってくる感じが素晴らしいです。
ここでは 主要な人物について、軽くだけ紹介しておきますね。
ビールを飲みながらカードゲームに興じているスティルの、一番奥にいるのが工場主のギーア。妻と少々不良の息子との3人暮らし。優しく陽気だが繊細で、物事の裏を読もうとしない性格。
右はギーアの大親友のレオ。おしゃべり好きで大酒飲みだが、性格は まっすぐ。家庭に不穏な問題を抱えている。
ギーアの左はキース。丸々太っていて幸福そうにも見えるが、家では信心深く頑固な奥さんに抑え込まれている。小綺麗に整えられている部屋には、亡くなった赤ちゃんの写真が大切そうに飾ってある。
一番左は金髪のニコ。優しく誠実で前向きだが、シャイな性格の独身男。仲間に言えない ある秘密を持っていて、しかも それを皆に見抜かれているとは全く気づいていないようである。
そして、後姿が 左端に ちょっとだけ写っているのが最年少のユース。働き者のエジプト系の移民で、事故に遭うまでは 将来を期待されたマラソン選手だった。
その他、彼らの奥さん達、子供達、捕らぬ狸の皮算用をしているらしいスポンサー氏、さらに ランニング用品店のハンサムでクリーン&セクシーな若い男性店員まで、それぞれが興味をそゝる人物です。
笑ったり吹き出したり、心配したりアキレたり 涙を流したりしているうちに、気持ちがドンドン前向きになってくる、基本的に陽気な明るい映画。観終えて館を出る頃には、自分を含めて“人間”を もっと好きになっているはず。本国オランダでは 動員30万人を超える大ヒットを記録したとか。それを聞いて、「オランダって気持ちのいい人が多い国なんだろうな」と僕は思いました。
私を愛したのは、親友の息子だった。
『美しい絵の崩壊』 (オーストラリア・フランス合作映画/111分/映倫R15+)
5.31公開。www.utsukushiienohokai.com
【STORY】 美しいビーチ・タウンで、子どもの頃から親友として育ったロズ(ロビン・ライト)とリル(ナオミ・ワッツ)。そして互いの10代の息子たちも、同様に深い友情を築いてきた。ある夏の日、かねてからロズに想いを寄せていたリルの息子は、爆発寸前の感情を打ち明ける。戸惑いながらも真剣に愛し合う2人。その関係をロズの息子が知ったことで 運命の歯車は大きく狂いだす。(試写招待状より)
少女の頃からの親友同士で、「同性愛的な感情を持っていたわね」と互いに認め合う仲のロズとリル、そして それぞれの息子達 二組の“インモラルな愛と性”を描いた作品。
原作は 英国のノーベル文学賞作家:ドリス・レッシングの短編小説。監督は オドレィ・トトが主演した成功作 『ココ・アヴァン・シャネル』のアンヌ・フォンテーヌ。主演は 『声をかくす人』のロビン・ライトと、『ダイアナ』のナオミ・ワッツ。
一応の期待を持って観たのですが、現実には ありえないような話で、僕は一種 近親相姦的な匂いを感じさせるシチュエーションに、最後まで溶け込むコトができませんでした。それは おそらく、“性”の描写には力が入っているワリに、“愛”の描写に深さが不足していたから。
But、相当緩やかなテンポやカットのタイミングが格調の高さを感じさせる上、撮影は特に夜の入江のロングショット等が官能的なまでに美しく、主演女優ふたりの演技と ギリシャ神話から抜け出てきたかのような息子達の美しい肢体が、主に大人の女性観客を魅了するだろうとは思いました。
次回の試写室便りは、5月28日頃、『グランド・ブダペスト・ホテル』について配信の予定です。では!
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/ |