東と西。
嘘と真実。
自由と使命。
その狭間で揺れる、愛。
『東ベルリンから来た女』 (ドイツ映画)
1.19からロードショー。
詳しくは、barbara.jpへ。
「1980年夏、旧東ドイツ。田舎町の病院にひとりの美しい女医がやって来た。彼女の名はバルバラ。かつてはベルリンの大病院に勤務していたが、西側への移住申請を政府に撥ねつけられ、この地に左遷されてきたのだ。秘密警察<シュタージ>による厳しい監視付きで。新しい病院の同僚アンドレから寄せられる さりげない優しさにもシュタージへの“密告”の手段ではないかと猜疑心が拭い切れない。西ベルリンに暮らす恋人ヨルグとの秘密の逢瀬や、シュタージによる家宅捜索や執拗な身体検査にも神経がすり減っていく。そんなバルバラの心の支えとなるのは患者への献身と、医師としてのプライドだ。それと同時に、アンドレの誠実な医師としての姿に、尊敬の念を越えた感情を抱き始める。しかし、ヨルグの手引きによる西側への“脱出”の日は、刻々と近づいていた――。」 (試写招待状より)
どちらかと言えば小品の部類に属すのでしょうが、コレは控えめに言っても注目に値する秀作です。淡々とした冷静な語り口の中にドラマティックな強いパワーが潜んでいて、最初から最後まで観る者の心を掴んで離しません。秘密警察の監視下に置かれながら、西への脱出の機を待つバルバラの葛藤の日々。そして惹句にあるとうり、「その狭間で揺れる、愛」を、他人事とは思えずに見つめ続けた105分でした。
たとえ“ベルリンの壁”については詳しくなくても、自己の任務に使命感を持ち、人生と愛について たとえ一応でも考えたコトがある人ならば、このバルバラ(若い娘ではなく、いろいろな意味で大人の女性)には共感以上の“何か”を強く感じてしまうはず。その“何か”については、クリスティアン・ペッツォルト監督のメッセージを、プレス資料から抜粋して紹介したいと思います。
「本作品で表現したかったのは、人が自己を確立するのに どのような過程を経てきたかという点です。人生において、なぜ猜疑心を持つようになったのか、何を信じて、何を拒否し、また何を受け入れるのか。人と時代背景の間には何があるのか。」
「本作品では、(中略)抑圧された東ドイツの一面のみを強調することなく、無垢で純粋な愛、心を解き放つ愛の力を加えた生身の人間を描いています。インパクトのあるメッセージはありませんが、作品を見終わった後、皆さんの心に きっと何かが残るはずです。それこそが私たちが描きたかったものなのです。」
知的かつ情熱的で、そのために疲労感を漂わせてもいるバルバラ役のニーナ・ホスは、適役を見事に演じきっています。ただ、ひとつだけ気になったのは、彼女の顔を暗く見せすぎているメークアップでした。濃く長い長いまつげにはブラックではなくブラウンのマスカラが、深くて強い澄んだ目元にはブルーよりもアンバー系のシャドウが、彼女のキャラクターを考えても、よりふさわしかったのではないかと僕は感じました。
アンドレ役のロナルト・ツェアフェルトも適役を好演。童顔に柔和な瞳を持つ彼がアンドレを演じていなかったとしたら、この映画はもっと硬質なタッチとなり、別世界の物語のように感じられたかもしれません。
全篇にわたり、何気ないような場面さえもが目に焼きついていますが、ラスト間際、蒼い夜のとばりに包まれた海辺での場面…、暗視装置をつけた小さな舟(正確には”いかだ”です)が波間から静かに現われるロングショットとバルバラの毅然とした行動…。そして それに続く温かそうな朝の病院の場面を、僕は決して忘れないと思います。
P.S. 蛇足ですが、この映画には“プライド”について感じさせる要素も含まれていました。“真のプライド”と実体のない”間違ったプライド”について見極めるコトができたなら、それは皆さんにとって(真に美しい女性を目ざすためにも)、とてもプラスになると思います。
©SCHRAMM FILM / ZDF / ARTE 2012
本当の自分は、タキシードの下に隠して生きてきた…。
『アルバート氏の人生』 (アイルランド映画)
1.18からロードショー。
詳しくは、albert-movie.comへ。
「19世紀のアイルランド。モリソンズホテルでウェイターとして働くアルバート(グレン・クローズ)。人付き合いを避け、ひっそりと生活しているアルバートは、長年、誰にも言えない重大な秘密を隠してきた。それは、“彼”が貧しく孤独な生活から逃れるため、男性として生きてきた“女性”だったということだった…。ある日、ハンサムなペンキ屋のヒューバートがアルバートの働くホテルにやってきた。自分らしく生きる彼の存在に影響され、アルバートは自ら築き上げてきた偽りの人生を崩し、本当の自分らしさを取り戻していく。不遇な人生を生き抜くために男性として孤独に生き、女性としての真のアイデンティティを見失ったアルバートが、自分らしく生きる《希望の扉》を開き始める。」(試写招待状より)
これは相当悲しいヒューマンドラマ。主人公アルバートが想い描く夢、そして包容力豊かな“大男”のペンキ屋ヒューバートと、彼の“妻”キャスリーンの言動が明るい光を投げかけてはくれますが、総じて悲しすぎる程の物語…。原作は短篇の小説で、この物語に惚れ込んだ大女優グレン・クローズが舞台で主役を演じて以来、実に30年の歳月を経て念願の映画化を果たしたという作品です。
人の一生の はかなさを目の当たりにして、僕は正直、沈んだ気分にさせられました。世の中、いろいろな人がいる。好運に恵まれた人と不遇な人、魂のキレイな人と汚れきった人、etc、etc…。観終えた後、頭の中をグルグルと駆け巡っていたのは、そんな想いでした。そして、そんな自分に驚かされもしたのでした。
今日に至る話をヒューバートに問われ、少女の頃の悲惨な出来事や、男装してウェイターの職にありついた いきさつをアルバートが語る場面は、たとえばですが、成瀬巳喜男監督の名作『浮雲』にあったような“数秒間のフラッシュバックの捜入”といった、映画ならではの手法を採用するコトもできたはずなのに、本作では ふたりの台詞とクローズアップを交互に映すというシンプルな方法で表現していました。
僕にとって最も印象的だったのは、乗合馬車の場面です。コツコツと貯めてきたチップで“アルバートのタバコ・ショップ”を開くという彼の輝かしい夢…、その実現に着手した辺りで、乗合馬車に隣り合わせて座った中年の一婦人が、アルバートの清々しく晴れ晴れとした横顔を何度か そっと見つめるという場面…。ちょっとした何気ないワンカットなのですが、非常にうまく自然に撮られていて、とてもとても良かったです。
また、ラスト近く、壁の塗り替えに呼ばれて再びモリソンズホテルへ現れたヒューバートと女主人との やりとりは、静かな場面なのに善と悪の対比が効いていて、胸を突かれる想いで観ていました。
出演者は端役に至るまで粒揃い。アルバート役のグレン・クローズ(チラシ写真の前方左)とヒューバート役のジャネット・マクティア(後方左)が とにかく素晴らしく、明るく温かいキャスリーン役のブロナー・キャラガー、愛らしくも かわいそうなヘレン役のミア・ワシコウスカ(前方右)、そしてホテルの女主人役のポーリーン・コリンズの演技も印象的でした。
P.S. ストーリーに関しては、予備知識を多く持たずに観るほうがいいと思います。そのほうが、登場人物達の心理描写に集中できるはずです。上映時間は113分。
©Morrison Films
俺を信じろ。言う通りにすれば必ず助かる。
『ファイヤー・ウィズ・ファイヤー 炎の誓い』 (アメリカ映画)
2.2からロードショー。
詳しくは、fire-with-fire.comへ。
シリアスな映画をDVDも含めて立て続けに観たせいもあるのでしょうが、このサスペンス・アクションは興味深く、怖かったけれども楽しめました。
題名の『ファイヤー・ウィズ・ファイヤー』とは「毒をもって毒を制す」という意味。
「証人保護プログラム」とは、米国内で裁判の重要証人をマフィアの報復などから守るために設けられたシステム。保護の対象者は政府機関によって身の安全を保障される代わりに、名前を変え、新たな社会保障番号が交付され、見知らぬ土地で別人として生活するというモノです。
チラシのレイアウトから受けた印象よりも実際はパワフル&スリリングな内容で、皆さんも のめり込んで観てしまうはず。
クライマックスの火事の場面がやや長く、ヤケドを負いそうな感じでしたが、それは主人公が悪との決着をつけると同時に恋人を救い出すという二重の活躍をするためで、スリルは十分、正義が勝つところでは拍手したくなった程でした。
我々の囲りでも実際に起こり得る話ですが、エンタテイメントとして楽しんで観るのがオススメです。
登場人物では、メインの三人のほかに、ブルース・ウィリスの部下である女性刑事のキャラが、プロとしても一女性としても魅力的でした。
P.S. いつも あなたの好みに合わせてくれる彼氏に「コレを観たい」と言ってみては? 彼氏、きっと喜んでくれると思います。上映時間は97分。
© 2011 GEORGIA FILM FUND FOUR, LLC
ビューティ エキスパート 大高 博幸 1948年生まれ、美容業界歴45年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 |