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Channel: 大高 博幸 –美的.com
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大高博幸の美的.com通信(215) 『8月の家族たち』 『ある過去の行方』 試写室便り Vol.66

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august

(c) 2013 AUGUST OC FILMS, INC. All Rights Reserved.

愛しいからこそ 憎らしい――。
8月の家族たち』 (アメリカ映画/121分)
4.18 公開。www.august.asmik-ace.co.jp

【STORY】 8月の真夏日、父親が失踪したと知らされ、オクラホマにある実家へ集まった三姉妹。真面目すぎて暴走しがちな長女バーバラと、反抗期の娘、実は別居中の夫。ひとり地元に残り秘密の恋をしている次女アイビー。自由奔放な三女カレンと、その不審な婚約者。迎えるのは、闘病中だが気が強く、率直で毒舌家の母バイオレットと、その妹家族。生活も思惑もバラバラな“家族たち”は、つい言わなくてもいい本音をぶつけあい、ありえない“隠しごと”の数々が明るみに――。(試写招待状より)

メリル・ストリープ(母親役)とジュリア・ロバーツ(長女役)の初共演。さらにユアン・マクレガー、クリス・クーパー、マーゴ・マーティンデイル、ベネディクト・カンバーバッチ、サム・シェパード etc、キャストの顔振れが目を惹く話題作です。
原作は、ピュリッツァー賞とトニー賞をW受賞したトレイシー・レッツの舞台劇で、映画化に当たって レッツ自身が脚本を担当。監督は『カンパニー・メン』(通信(70)で紹介)のジョン・ウェルズ。
演技も撮影も音楽も全てが充実した作品ですが、特に凄いと感じたのは レッツによる“台詞”。皮肉、嫌味、頑悪なまでの自己主張、言葉の裏の探りあいや辛辣な応酬バトルが繰り展げられ、つかみあいにも発展する…。最初のうちは それが非常に面白く、話が進むにつれて深刻になったり残酷になったりするという具合で、この映画は言わばビターなコメディorコメディの要素を持つシリアスな人間ドラマ。少なくとも、ハートウォーミングなホームドラマを期待しては いけません。

最初のほうで記憶に残った台詞をひとつ。初期癌のために何種類もの薬を飲み続けているバイオレット(M・ストリープ)が、呼ばれて やって来た次女(ジュリアン・ニコルソン)に言う台詞です。
「あんたと同じよ。さぞかし役に立つわ、あの人。ところで あんた、なぜ化粧しないの? 女は化粧しなきゃダメ。素顔のまんまで美しいのは、エリザベス・テイラーだけ!! 彼女だって塗りたくってる!! そんなだから、男ができないのよ!! あ、私、いま 何錠飲んだ?」。
コレはホンの序の口で、家族十人が集まった食卓での毒舌バトルなど、そこまで言うか という程の激しさ・凄じさ。
一番まともだった台詞は、ラスト近くでチャールズ(C・クーパー)が、妻でバイオレットの妹のマティ・フェイ(M・マーティンデイル)に向かって吐き出すように言う言葉、
「君達の冷酷な口のきき方には我慢ならない。なぜ人に敬意を抱くコトができないんだ? 人として許されるコトじゃないぞ。君との38年間は大切な時間だったと思っている。だが、それを直そうとしないなら、39年めは ないと思ってくれ!」。
この台詞は、善良で しかも個性的な俳優:C・クーパーの口から発せられるコトによって、真実味と説得力が増幅されている と感じました(彼は どんな役を演じても、作品の質を高める貴重な俳優)。

後半には驚きの秘密の暴露が用意され、また 当人よりも先にバーバラ(J・ロバーツ)と観客が事情を知る という流れもあって、息が詰まるような思いをさせられます。
The Huffington Post紙は「愛という名のもとの残酷さ」と評したそうですが、全く そのとおりの内容で、ほゞ100%の観客が、「自分と共通する点が少しor少なからずある」と感じさせられるはず。観終えた後、「この先、登場人物達は全員どうなって行くのだろう」と想像する一方で、自分自身の心の中を覗いて見てしまう…。コレは そんなコワさをも秘めた 大人向きのエンターテインメント。

 

© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

© Memento Films Production – France 3 Cinéma – Bim Distribuzione – Alvy Distribution – CN3 Productions 2013

別れゆく男女に もたらされた、衝撃の告白。
心の底に沈んだ記憶と秘めた思いが蘇るとき、謎は、さらなる謎を呼ぶ。
ある過去の行方』 (フランス・イタリア合作映画/130分)
4.19 公開。thepast-movie.jp

【STORY】 フランス人の妻マリーと別れて4年。今はテヘランに住むアーマドが正式な離婚手続きをとるためにパリに戻ってくるが、マリーは、すでに新しい恋人サミールと彼の息子、娘たちと新たな生活をはじめていた。しかし、娘からアーマドに告げられた衝撃的な告白から 妻と恋人、その家族の明らかにされなかった真実が次々と浮かび上がり、さらなる疑惑を呼び起こす。(試写招待状より)

『アーティスト』(通信(95)で紹介)では エキストラからスターダムに駈け上がって行く新人女優役を、『タイピスト!』(通信(168)で紹介)では 若いヒロインを助ける大人の女性役を好演したベレニス・ベジョが、2013 カンヌ国際映画祭で見事、主演女優賞を受賞した作品です。

簡潔に言うと サスペンスの要素を持つ人間ドラマで、登場人物達の ちょっとした感情に基づく行動が複雑に絡み合い、日常生活にありがちな思い込みや行き違いが 人生を大きく左右して行く様子を描いています。疑いや憎しみや拒絶の裏に愛があり、それぞれが ついて回る過去と、やり場のない感情を抱えながら生きている…。決して難解ではありませんが、これは登場人物達の心理の深層を掘り下げて行く といった内容のユニークな作品。
『別離』でアカデミー賞を受賞したアスガー・ファルディ監督の演出は、濃密かつ繊細。テンポは相当緩やかでありながら、緊張感に貫かれています。彼は、「映画とは 探偵がいない探偵映画のようなもの。パズルを解くのは観客自身」と述べたコトがあるそうです。本作はフランスで、『別離』を上回る大ヒットを記録しました。

ベレニス・ベジョは、僕にとって相当気になる女優のひとり。前2作(前述)での彼女の役には、“誰かを助けずにはいられない性格”という共通点が明確にあったのですが、この映画では どちらかと言うと、“自分本位に生きる女性”を演じています。
今回、僕は本作を観て、彼女は ①演じられる役の幅が相当広い、②ヘアスタイルとメークで雰囲気が相当大きく変わる、③ハリウッド的な華やかなスター女優とは異質な存在ながら、“観客動員に寄与できる大人の女優”というポジションを確立できそう、と思いました。次の作品が どうなるか、今から興味津々です。

ベレニス・ベジョの長女役を演じているのは、現在17歳前後のポリーヌ・ビュルレ。顔の角度と表情によって、マリオン・コティヤールに似ていると感じたシーンが幾つかあったのですが、それもそのはず、『エディット・ピアフ~愛の讃歌』で、コティヤール扮するピアフの少女時代を演じた女の子(当時は10歳前後)でした。彼女も将来有望、本格的な女優としての道を歩み始めているようです。

 

次回の試写室便りは、『百瀬、こっちを向いて』と『ブルージャスミン』、『世界の果ての通学路』について、4月下旬に配信の予定です。では!

 

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 http://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

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